ツヅクメグルヒ





僕は山の中を歩いていました。

 優先

突然敵が前に現れ、斬りかかってきました。
――もう駄目だ、間に合わない。
諦めて目を閉じ、胸ポケットに入れてある花の栞のことを考えます。
――君に会いたい。
斬られる衝撃はなかなか来ませんでした。
そっと目を開けて見ると、敵が仰向けに倒れています。
代わりに煙のたつ銃を持った農夫らしき人が立っていました。
――助けてくれたのか?
暫く様子をみても何もしてこないので話しかけて見ようと思いました。
「あの……」
発砲音。
僕は撃たれました。

 味方

傷を負った僕は銃を撃ってきた農夫を殺しました。
よろめきながらその死体から使える物を奪います。
それから先へと進んでいくと、敵がまた現れました。
――もう、どうでもいい。
僕はそれを無視しました。
胸ポケットから花の栞を取り出して見ます。
――何故君は僕にこれを渡したんだ?

斬られる衝撃は来ませんでした。
僕と同じ服を着た誰かが応戦したからです。
僕は栞を元の場所に仕舞い自分の手に握られているものを見ます。
発砲音。
僕の撃った弾に当たり敵が倒れました。
後から来た誰かはこちらに笑顔を向けて剣を下ろします。
発砲音。発砲音。
僕はその人を二度、撃ちました。
その人の最期の言葉が聞こえてきます。
小さく「知らない」とだけ答えておきました。

 花畑

前日の雨で地面にぬかるんでいる所があり、足を滑らせてしまいました。
軽い崖になっている斜面をあちこちぶつけながら転がり落ちます。
そして、目を覚ますと花の中でした。
橙色の花びらが頬を撫でていきます。
風に唸る青空があって風にざわめく木々があって風に揺れる花があります。
その花は僕の持っている栞の花と同じ花でした。
――僕は生きている。
栞を取り出してみると、血で染まった部分もあるけれど花の所は無事でした。

星空

半日歩き、街に入ると兵隊が母子を殺そうとしているところでした。
咄嗟に二人を庇い、戦います。
母親の方は庇いきれず死にました。
そのあと僕は敵をなんとか殺し、倒れます。
今までないほど深い傷を受けました。
何とか守れた子供を霞む目で見上げます。
子供は死体を見つめて言いました。
「お母さんは星になるんだね」
死体から空に視線を動かし腕を広げてその子は言葉を続けます。
「早く私もあんなふうにキラキラ光りたいな」
人は死んでも空の星にはなれないよ。
胸ポケットを押さえながら僕は口を開きました。
けれども僕にはそれを言う勇気がありませんでした。
――君だったらどうしたかな。

存続

昔、星空を見上げて誰かと話をしました。
とても大切でたくさんの目に見えないものをくれたひとでした。
だからその人とはその夜のうちに話したかったのです。
『世界には終わりなんてないんです』
僕は言います。
これからも度々窮地や救済は訪れるでしょう。
これからも度々祝福や裏切りは訪れるでしょう。
そこで句切りはついてしまうでしょう。
――たとえ君が死んでも。
『それでもおわってしまってくれるわけじゃないんです』
そう語り終えた僕に隣に座る誰かは言います。
『でも君が死んだら君の世界は終わるんだろう』
『……そうですね、そうかもしれないです』
僕は上の空に手で栞を弄りながら答えました。
何故なら日の出が迫っていたからです。
それから僕はその人に対する裏切りを完遂させました。
恐らく彼は日の出と共に現れた軍隊に殺されてしまったでしょう。

こんな罪深い僕なのにあれだけの傷を受けても生きていました。
だからまだこの世界と共に僕の世界も続いていきます。
たとえ君が僕を忘れてしまっても、終わることはないのです。










日付。