わたしのいとしいかれ
突然だが、私は人間が嫌いだ。
どんな人も平等に嫌いである。
聖人だろうが殺人犯だろうが構わない。
というか生き物が嫌いだ。
ただ枠を生き物まで広げると平等にとはいかない。
カメレオンだけは他よりも嫌いだ。
それはさておき私はそんなちょっと変わった人間なのだ。
だがまあ学校では友達と呼べるだろう人を作った。
親が世間体を気にして煩いし何より私が淋しかったからだ。
友達の選択方法としては、向こうから近づいてくる人。
ただしいじめっ子は嫌われない程度に距離をおく。
面倒なことには巻き込まれたくないから。
あと教室や部活内で一人でいて友達を求めている人。
優しいというイメージは与えておいて損がない。
しかしあくまでも表面だけの友達。
なるべく害を与えないで無害な生物と思い込ませるように。
私に好かれていると勘違いさせるように。
演じる。
私は皆に好きだ好きだ言ってるがそんなもん大嘘だ。
相手が私をどう思うかは知らないが私はやつらが嫌いだ。
生きているから。
そんな私が、中一の夏休み初恋をした。
その相手は色白で背が高くて、そして触ると感電死する……。
送電塔。
……いや、笑わないでよ?
あの日私は自己嫌悪にたえられなくなって家をとび出た。
6時間程歩いて疲れて座り込んだときそこに彼がいたのだ。
何も言わずに堂々と立っている彼をしばらく見つめた。
すると心の中の嫌な物が消えていき代わりに恋心が芽生えた。
というわけだ。
4時間見つめ続けた後私は大人しく家に帰った。
そして次の日から彼のもとに通い出した。
愛しい彼を見つめたり彼の仲間に会いに行ったり。
彼にとまっていた烏に嫉妬して石を投げたりもした。
私の頭の中は彼の事でいっぱいだった。
だが運命は残酷だ。
親が私に勉強させる為に外出を制限したのだ。
嗚呼あわれ私達はロミジュリのように引き裂かれてしまった。
……え?
シェークスピアに失礼?
あ、そう。
で、彼に会えなくなって一年。
薄情な私はとっくのとうに彼への愛を失くしていた。
そして身近な所にいた別の彼に惹かれていた。
その彼は丸顔でたまにうるさくて時間に正確な……。
音鳴 猛くん。
……ん、何、予想が外れた?
いや、多分あたってたと思うよ。
これ、私がつけたあだ名だから。
一般名称は『目覚まし時計』。
皆様の思った通り。
この猛くんに惹かれた理由は一言で言うと健気だから。
毎朝毎朝私に投げられても全然狂わず役目を果たす。
そんな彼に気付き私はあまり彼を投げなくなった。
そしていつもそばに彼を置くようになった。
毎日会えるためか、私は段々彼に恋していった。
が、この恋は悲しい結末を迎える。
中三の秋、私は彼をこの手で、殺してしまったのだ……!
あの朝、寝不足だった私は彼を全力投球してしまった。
可哀相な彼は壁にぶつかり歯車飛び出しバラバラに。
自分のした事に気付いたってもう遅い。
彼は既に事切れていた……。
彼の後継ぎ達は彼ほど忍耐強くなく魅力がなかった。
「彼以上のひとなんて現れる訳がないわ……!」
とか言っていたのに半年後の高一の春、私はまた恋をした。
え、惚れっぽいですか。
皆、こんなもんでしょ。
さて、今度の相手は稲妻だった。
嵐の夜、家に帰る途中の私が空を見上げた時、彼が現れた。
空全体が明るくなり正面に橙色の彼が走る。
そして彼の熱で空気が大きな音をたてる。
気がつけば私は恋に落ちていた。
さながら雷にうたれたかのように。
彼が鳴らす音を録音して聞いたり写真集を買ったり。
アイドルに恋をしたような気分だった。
でも彼はなかなか私に会いに来てくれない。
あっという間にこの恋も冷めてしまった。
それから惚れっぽい私は高一の冬、新しい恋をしたのだ。
痺れる角を持ち時間に正確で大きな音を出す走るのが速い彼。
理想的だった。
引っ越すまで気付かなかったのが悔しい。
前の最寄駅では彼は停まってしまうとはいえ。
そう、彼は特急列車。
新しい最寄駅を颯爽と通過する彼に私はメロメロだ。
今、私は駅のホームにいる。
蝉がなき、じりじりと太陽が私を照らす。
もうすぐ彼がここを通る。
私はそれを待っている。
あ、彼の姿が見えた。
彼が近づいてくる。
アナウンスが流れる。
足が吸い寄せられるように黄線の外に出た。
駅員は暑さにやられたのか全然気付かない。
彼がホームに入ってきた。
もうすぐ私の前にくる。
胸の動悸がおかしい。
日射病?
違う違う、これは恋の病。
ああ愛しい彼がくる。
私は生きているものは嫌い。
彼が好き。
私は近づいてくる彼に向かって駅のホームを飛び出した。
私の愛しい彼……。
2007/08/26