薔薇の独占欲





彼女は人に嫌われていた。
そして彼女も自分を嫌っていた。
そしてその原因は自分の外見だと彼女は思っていた。
周りに人がいたら言うまでもなく一人でも劣等感を感じる。
そんな彼女には一つの癒しがあった。
荒れた屋敷の荒れた温室、そこに咲いたみすぼらしい薔薇。
それの世話が彼女を救っていた。
それは徐々に数を増やして今では立派に温室を彩っていた。

その日も彼女はいつも通り小走りに温室に向かった。
だが温室に入るとそこにはいつもとは違い、先客がいた。
身なりの良い若い男だった。
誰、と彼女は聞いた。
すると彼は振り返り、あの屋敷の主人だと答えた。
それを聞いた彼女は血相を変えて謝ったが彼は笑った。
ここの薔薇を手入れしてくれていたのだから構わない、と。
彼女は、見ていたの、と聞いた。
彼は、毎日ずっと見ていた、と答えた。
そして彼女に紅茶を勧めた。
彼女は断ろうとしたが彼がどうしてもというので従った。
しばらくして彼は唐突に言った。
君のような美しい人とお茶ができて嬉しい。
驚いた彼女は思わず紅茶を吹き出す所だった。
何故この人はこんな台詞を吐けるのか。
しかもこんな不細工な私に。
彼女は皮肉かと思い逃げ出そうとした。
しかしすぐ捕まりどうして逃げようとしたか聞かれる。
そこで渋々理由を告げると彼はそれは違うと言った。
君は美しいんだ本当に、この薔薇のように。
彼女は、なんて恥ずかしい事を言う人だろうと思った。
だが、それを言う彼の目は真剣だったので彼女は喜んだ。
そしてその日は次の日も来るという約束をして別れた。

それから数日がたった。
彼女は自分を美しいと言ってくれる彼が好きになっていた。
彼はいつもより嬉しそうな顔をしていた。
何かあったのか聞くと、やっと外に出られるのだと答えた。
屋敷の門の外に一度も出た事がないから楽しみだ、と。
どういうことか聞くと彼は語った。
彼は小さい頃から病弱で外に出して貰えなかった。
両親もものごころつく前に亡くした。
幼い子供の彼に会いに来る客もあるはずがなかった。
その為世話してくれた爺以外の人間に会った事がなかった。
最後に彼は付け加える。
だから君は僕が会った二番目の人間なんだ。
それを聞いた瞬間、彼女は焦った。
彼が外に出て他の人を見れば私の外見が悪いのが判る。
そうなったら彼は私に見向きもしなくなるだろう。
彼女は薔薇を見る。
今ではすっかり美しくなってしまった薔薇の花。
「…………外を見ないで…………」
彼女は呟いた。
「私以外の人をその瞳に写さないで…………」

彼女は傍にあった園芸用の鋏を彼に気付かれないよう手に取る。
そして…………。










2007/02/11