からっぽの通話相手





学校が終わってすぐに近くの公園に走る。
その小さな公園にはこの時間帯、誰も来ない。
ザキが電話は誰もいないところでしろって言ったから。
今日も私は彼女からの電話をここで待つ。
携帯が着信した。
ポケットから携帯を取り出し電話に出る。
『もしもしー高郷亜希子さんですかー』
「うん、そうだよ、江崎葉子さん」
『アキ今日喧嘩したでしょ』
「なんでザキはいつも私のした事わかるの?」
『勘よ勘』
ザキとの会話はいつもの様に楽しかった。
最近会えない寂しさも薄らぐ。


そのまま一時間程話をして。
「あ、そろそろ帰らないとお母さんが」
腕時計を見ながら私は言った。
『そっか、じゃあねアキコ』
「うん、バイバイ、ザキ」
通話が終わる。
私は喉が渇いたので水飲み場で水を飲んだ。
彼女と話すと異常な程に喉が渇くのだ。

ガサッ
音がして振り向くといつのまにかそこに男がいた。
手にスーツケースをさげている。
「高郷亜希子ちゃんだね、捜したよ」
「誰?」
「子供になら言ってもいいかな。僕は眞直相窺瞭矢」
「ミネザキ?」
「いやいや、『みねさき』だよ。濁らないから要注意」
「……そっか」
「そう、君の友達とは違うんだよ」
その男は言った。
私がザキの事を考えたのがわかったのだろうか。
私を知ってるのだからザキも知ってるのかもしれない。
「そろそろ本題に入るよ……質問を一つするから答えて」
「何?」
嫌な予感がして私は一歩後退りした。
「君の携帯は何処の会社のなんだい?」
え?
「答えて。君の携帯は何処の会社のなんだい?」
何処の会社のってそりゃあ……。
あれ?
「わからない?なら色は何色?形はどんなの?」
私の携帯は……。
「君の大好きな江崎ちゃんと話す為の携帯だ、何処にある?」
さっきも使った筈なのに。
ポケットが空だ。
「ないよねぇ。そんなもの、何処にも」
男が言う。
「一人二役で一時間はそりゃ喉も渇くよね?」
男が笑う。
「君のしたことは何でも知ってるわけだよね、そりゃ」
嫌だ。喋らないで。
「一ヶ月位前に向こうの通りで死亡事故があったね」
シボウジコ。……事故。……死亡。
「被害者の名前は江崎葉子だっけ」
ザキが死んだ?
「いつまでも止まってたら独りになっちゃうよ」
独りはさみしい。
「それじゃ」
私は公園に一人だけになった。


そんなの認めない。
私の親友であるザキが死ぬなんて許さない。
そんなの認めない。
認めたら独りになりそうで恐かったから。
自分が勝手に認めないように、とどまるための殻を被る。
でも簡単に亀裂が入ってしまった。
亀裂はどうしても埋まらない。
だから私は今ようやく彼女の死を認め、泣いている。
涙は完全に空想を壊し現実を明確に見せる。
もう先に進むしかない。

さようなら、江崎葉子。
あなたはもう思い出になる。
バイバイ、またどこかで。










2007/01/14