私の中の虚像の鏡





ある夏の夕方、私は友人みさぽんの家で読書しておりました。
それはぞっとするようなミステリーでした。
みさぽんも寝そべり本を開いています。
彼女のは明るく恐ろしい黒魔術の本でした。
家の外ではセミが鳴いている様です。

みさぽんが私に声を掛けました。
「りゅーちょん知ってる?」
私の本名は各務立菜でカガミリュウナと読みます。
「学校の階段の踊り場に凄く古い鏡あるじゃん」
確かに全身が写る便利な鏡があった気がします。
「ええ」
「でね!真夜中にそこで手を組んで願い事すると……」
学校の伝説のような物でしょうか。
「叶えてくれる時は返事が聞こえるんだって」
どうやら七不思議の方な様です。
「でもそれで振り返ると……」
「ると」
「その人は願いが叶った次の日から呪われちゃうんだって」
「きゃぁあぁ」
私はそう言いました。
恐かった訳ではなくその証拠に棒読みでした。
『またですかよく飽きませんね』という意味で使います。
「まあそうは言わずにやりましょう」


という訳で真夜中です。
「暗い学校って怖いね、何度来ても」
みさぽんは度々私を連れて夜の学校に侵入しています。
その上どうやら何回か一人でも来ている様です。
みさぽんは手慣れた動作で職員玄関の鍵を開けました。
ど田舎なのでセキュリティなんて云うものはありません。
私達はそっと校舎に入り込みました。


「さてそろそろだな」
夜食を済ましたみさぽんは階段から立ち上がりました。
私も持って来た椅子から立ちます。
今は午前二時の三分前です。
「ほらさっさと準備する」
と言ってみさぽんは私を鏡の前に押しやりました。
「何でしょう」
「手ー組んでーていうとあんたの方が絵になるし」
「……」
「ま、いいからやって」
「…………」
私はいやいやながらもやろうとしました。
ですがそこではたと私の手は止まります。
「ん?どした」
「願い事は何にします?」
「あしたの数Tが自習になるよーに」
そういえばみさぽんは数Tの斧史明先生が嫌いです。
因みにその弟の忠明先生は数Aを教えています。
私は改めて手を組みました。
深呼吸をして静かに待ちます。
ピピっと腕時計が時間が来た事を告げました。
「あすの数Tの授業を自習にして下さい」

言い終わるとみさぽんがため息をつきました。
「この緊張感がたまらない」
「これで完了ですね」
「お疲れー」
階段を降りていくみさぽんに私も続きます。
何段か降りた所で私は振り返りました。
声がしたので誰かいると思ったからです。
ですが誰も居らず、恐くなった私は急いで階段を降りました。


次の日の朝、担任は青い顔をして入ってきました。
そして開口一番にこう言ったのです。
「斧史明先生が事故に遭われ病院に運ばれたそうです」
クラスの皆は驚きました。

「……ですので今日の数Tは自習です」

みさぽんが震えています。
きっと私も今、酷い顔をしているでしょう。




そして帰りのHRで史明先生が亡くなった事を知らされました。










2006/09/10