消失寂寥歌〜第2番
あの日、雪が降っていたが、あいつは俺を遊びに誘った。
そしてその帰りに次の日も会う約束をした。
だからその翌日、俺はあいつの家に向かったのだが。
「……」
そこにあるはずのあいつの家が無かった。
ずっと前から、そこには何も無かったかのように。
丈が随分とあるたくさんの草が、その土地を覆っていた。
俺は慌てて周囲を確認する。
だが今までに来た時とまるで変わらない家並みだった。
とりあえず隣にある家のインターホンを押す。
「あの、すみませんがっ、ここの隣って引越したんですかっ」
「ここの隣?……ちゃんと建ってるじゃない」
「道路から見て右の方です」
「そっちなら私がここに住み始めた二十年前からずっと空き地よ」
「そ……んな」
「悪徳商法にでも引っ掛かったの?」
俺が何も答えないでいるとカシャンという音がした。
受話器を置いたようだ。
「これは悪戯ですか、あいつの」
俺は一人で呟く。
「……俺が慌てている所に出て来ようと待っているんですよね」
風が耳元で唸る。まるで。
「それできっとあいつは……そう、別の所に引越したんです」
まるで、俺の考えを馬鹿にするかのように。
「そう……です、よ」
暫く待つがあいつは現れない。
気温が下がり雪が降り始めた頃、俺は走って家に帰り母親に聞いた。
「あいつ何処だか知りませんか」
「あいつって誰」
訝しげに聞き返される。
「昨日、一緒に出掛けた……」
そこで俺はあいつの名前がわからないことに気付いた。
「え?あんた昨日は一人で出掛けただろう?」
追い討ちの様に母親の声が響く。
……あいつは消えた。
俺はやっとあいつの言っていた事が本当だったと知った。
『あの人がいなくなってしまったの』
おかしくなったのかと思われるだけかもしれないのに。
その事に気付いただろうに、ずっと言い続けたのは。
忘れられるのが恐かったのだと。やっと、気付いた。
でも、もう
学校の名簿から、
友人の記憶から、
俺の、記憶から、
この、世界から、
あいつが消えた。
あいつの髪や顔立ち声や匂い、もう思い出せない。
あいつは何処に消えたんだろう?
何処を探せば見つかるのだろう?
白色の雪が降る中、ある歌を思い出す。
哀しいのか、寂しいのか。
〈第2番歌い終わり〉
2006/03/19