消失寂寥歌〜第1番
『何故、皆、俺の幸せを壊すんだ。
どうして嫌な真実を幸せな時に突き付けるんだ。
俺は人の幸せなんか壊さない様にしているのに。
自分の不幸に溺れて他人の幸せを破壊したのに気付かない?
そんな事をなら皆。
消えてしまえ 。』
そう思っていた時期があった。
本当に消えたらどんなに寂しいかも知らないで。
自分も人の幸せを壊してきた事に気付きもしないで。
−− 消 え て し ま え 。
だけどもう、あいつの本当に幸せそうな顔を見て。
そんな事を思うのは止めたのに。
だのに……。
……あいつが消えた。
「じゃあね」
「またあした」
いつも通りだったのに。
夕焼けだってあんなに綺麗だったのに。
あいつが消えるなんて……。
事の始まりは、今から思えば五月のあの日。
春だというのにもう暑くなってきていたあの日。
あいつは言った。
「私の大切な人が消えてしまった気がする……」
「大切な人?そいつは俺よりも大切でしたか?」
俺がそう聞くとあいつは少し悩んだ。
「……同じくらい……かも」
「ふうん」
正直に言ってその時は、そんな奴消えて良かったと思った。
俺程もあいつに思われる奴なんて消えて良かったと。
そんな事を思ってしまった。
その一ヶ月後あいつはまた言った。
「あの人がいなくなってしまったの」
「あの人?」
「もう私の記憶からもいなくなってしまった
……私にもあんなに親切にしてくれたのに」
そいつの特徴を聞き俺は言った。
「そんな奴いましたか?」
夏に入ってからは週に一回以上そんな事を言っていた。
あまりに回数が多いので一度聞いてみた事がある。
「前に言っていた奴と同じ奴ですか、それは」
「ううん、全然違う人だよ」
俺はあいつの頭がおかしくなったのかと思った。
いくらなんでもそんなに人が消えたら俺だって気付く。
それに警察も調べ始めるだろう。
だけどそんな事は無かったから。
ただ、あいつは別に精神的にはおかしくなかった。
だから俺も病院に連れて行きはしなかった。
秋に入った。
「私ってお姉ちゃんと二人暮しだよね?ずっと」
「そうでしょう?」
「でも……じゃあ親は何処にいるんだっけ?」
「そういえば聞きませんね、お前の方の親の話」
「アハハ」
あいつはその頃よく笑った。
……まるで寂しさを紛らわすかのように。
そして。
逆らう事の出来ない時間の流れに乗って。
その日は来る。
俺が、あいつと会えなくなる日が。
俺が、あいつを忘れてしまう日が。
俺が、あいつの為歌い始める日が。
来る。
終わりの始まり。
〈第1番歌い終わり〉
2006/03/05