センシノウタ





世界は廻る。
たとえそれを知る者がいなくなっても。
世界は廻り続ける。
たとえ世界にある全てが無くなっても。
世界は気にしない。
たとえ世界自体が滅んでしまっても。
世界は気づかない。










「んーつかれたー」
そう言って伸びをした。
すっかりこの体に合った口調と仕草になってしまっている。
周りから見たらただの青年だろう。
こうして自分は他の存在を搾取して生き長らえてきた。
そしてそれはこれからも延々と続いていく。
この自分という存在が終わらない限り。
少し前まではこの状態に不満は無かった。
しかしこの体に移ってからどうにもおかしい。
他人を犠牲にし生きるのに疑問を持ってしまった。
この体の前の持ち主がその疑問を抱えていたのだろうか。
「僕は死ぬべきだ」
いや、そんな事はない。
そんな事をしたら今までの犠牲はどうなる。
それに自分が死んだら世界はどうなる?
「私は死んではいけない……」
本当にそうだろうか。
「……まぁいい、どうせ僕は死ねない」
この体が死んでもまた別の器に移されるだけだ。
ふと眼下に黒い化け物が見えた。
取り敢えず考えるのはやめてあれを退治しよう。
僕は心のどこかである期待をしながらそこへ向かった。










死の匂いが辺りに充満している。
幾千の死が怨みを歌うのが聞こえてきそうだ。
黒い怪物に殺された数は儀式で殺された何倍にもなった。
なのに何故か自分は殺されていない。
何故……?
『そりゃお前がアイツに加担していたからだよ』
ソレはまだ僕と完全には融合していなかった。
精霊とも呼ばれ僕の友人であり僕だったソレ。
『そうさ、僕はまだここにいる』
――加担って何。
『君がいなけりゃアイツはこちらに渡って来れなかった』
――何故。
『君が儀式をやらせたんだよ』
……………………。
命令するんだ。
お前は媒体に選ばれた。
儀式を始めろ。
そして、神を復活させろ。
……………………。
僕は夢の中でそう言われた。
そして僕はその声の主と信者達との伝達役となった。
『全てが君のせいだとも言える訳だ』
――煩い、お前がやらせたんだろ。
『そう』
「僕が」
今のは僕の喉から発せられた声だ。
ああ、夢の精霊が完全に僕に溶け込んでしまったようだ。
じゃあ僕はこの恨みを誰にぶつければいいんだ。
「…………僕自身、か」別に悲劇ぶってるんじゃない。
僕はこれから嫌いな奴を殺すだけなんだから。











野に咲く花は枯れ森は赤々と燃えている。
目の前にある崩壊した町は真っ赤だった。
その赤は死体から流れる赤によりさらに濃くなる。
まるで地獄の様だと思った。
いや、私は死んだのだから本物の地獄かもしれない。
それからフラフラと辺りをさ迷う。
しばらくして周りの景色に違和感を覚えた。
こんな場所には来た事がないのに何故か見覚えがある。
忘れているだけで来た事があるのだろうか。
でもこんな廃墟の町には来た事がない。
さらに歩き続け突然理解した。
ここは見知らぬ廃墟の町などではない。
自分が住んでいるよく見知った町だった。
ただ少し全壊してしまっただけで。
崩れていたが今眼に写っているのは確かに私の家だった。
家に近付こうとした時車の走る音が聞こえた。
しばらく待っているとその車は現れ私の前に止まった。
「まさか生存者がいると思わなかったわ」
車を動かしていた女がそう言いながら私を車に乗せた。
私は生きていたのか。
神の為に神官として死んだはずだったのに。
何故生きているのだろう。
恥ずかしい事だ。
しかし私の心は別の物を感じていた。
それは喜び。
生きているだけでこんなにも嬉しいなんて。
この喜びを知ってしまった私はもう死ねない。
ひたすらに生きようとするだろう。
それでいい、と思った。
誰かの犠牲になるのは美しい。
だが生きようとあがくのも正しい生き姿だと思った。










歌が聞こえた。
それは哀しい唄だった。
そちらを見ると一人の女がいた。
膝の上には一人の息絶えた男。
その男には見覚えがあった。
先程武器を向けてきたので殺した男だった。
歌が終わったところで私はその女に聞いてみる。
「何故その男は逃げずに私に向かってきた」
答えは期待していなかったがあっさりと返ってきた。
「貴女が彼の世界を壊したから」
歌う声とは違い酷く淡々とした声だった。
「世界はただの器だ。新しい世界を作ればいいのに」
「世界はただそこにあるだけでいいの」
彼女は男の頭を一度撫でると膝から降ろし立ち上がった。
「だから世界の為に戦う戦士は酷く哀しい」
彼女は泣いているようだった。
「それはその男のように?」
「ええ、そして私もまた、彼と同じ」
「……私には世界なんてどうでもいい」
それは本当のことだった。
命を懸けた約束さえはたせれば他の事なんてどうでもいい。
だが彼女の次の言葉は意外な物だった。
「貴女の約束はもう果たされている」
「え?」
何を言い出すのだ、この女は。
「実際に彼と話をしてみたら?」
そう言うと急に彼女の姿が消えた。
何処に行ったのかと辺りを見回せば別の人影が見つかった。
そこにいたのは彼を奪いそして彼であったあいつだった。
「あっ……?」
そう気付いた瞬間、めまいがおき目の前が真っ暗になった。










楽しかった日々はもう戻らない。
たとえ過去に戻れても私の手は汚れてしまった。
別に昔に戻りたいわけじゃない。
ただ、私は約束を果たしたいだけなのだ。
それなのに彼女はもう約束は果たされたと言った。
まだ、約束は果たせてないはずなのに。
あの言葉の意味を知る前に意識を失ってしまった。
今私がいる場所は真っ暗で何も見えない。
気付いた時にはここにいた。
真っ暗なこんな所にいると気が滅入りそうだ。
訳もなく寂しくなり泣きたくなってくる。
だからその声が聞こえた時、幻聴だと思った。
「なんでこんな所に来たの?」
それは紛れもない彼の声だった。
しかし近くには誰もいない。
気のせいだったのだろうか。
「君には見えないけど僕はここにいるよ」
私の考えを見透かしたかのように彼が言った。
「それで君はどうしてここにいるの?」
「貴方を助けに来たに決まってるじゃない!」
彼の問いに私は怒鳴って返した。
「それは嬉しいけど君にはもう助けてもらったよ」
「なっ!?」
「僕も初めは器になるなんて嫌だったんだ」
彼の声は穏やかだった。
「器になる位なら、と死のうとしたら君に出会ったんだ」
そんな事は初耳だった。
「さらに君は僕をあいつから庇ってくれた」
「……」
「君がいなかったら僕は逃げ出して死んでたよ」
「そんな……」
「でも君のいる世界の為なら器になりたいって思った」
「そんなの……ただの自己満足だよ」
「うん、君がそんなに約束を気にするとは思わなかった」
約束……。
そう、私は約束の為に来た。
でも……。
「そうじゃない……私は貴方と一緒に……」
彼の存在を近くに感じた為か欲が出てしまった。
そしてそれに対する彼の返事は意外なものだった。
「……じゃあ僕と一緒に来る?」
「え?」
「君も器になればずっと一緒に……いや、図々しいかな」
ずっと一緒……?
「一緒に……いてくれるの?私、こんなに人を……」
「そんなのはどうでもいい」
「それなら一緒にいきたい」
今、わかった。
世界なんてどうでもいい。
道徳なんてどうでもいい。
生命なんてどうでもいい。
幸福なんてどうでもいい。
私にとって貴方が全て。
たったそれだけの事。




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2007/04/29