「命を懸けて」





「……でも」
「大丈夫、そんなことになっても私が貴方を助けに行く」


「命を懸けて」



そんな甘い記憶。

懐かしいのに思い出せば思い出す程悲しくなる。
早く彼を助けなくては。





ある眠気を誘う昼下がり。
私達は出逢った。

そこはただの道端だった。
私は何となくそこに座り景色を眺めていた。
彼は用があってそこを通った。
私はふと前を通った彼に声をかける。
何かを思って声をかけたわけじゃない。
だから声をかけたはいいが続く言葉はなかった。
ただ彼を見つめる。
彼もまた無言で私を見つめた。
言葉はなかったが私達は通じ合っていた。
もし彼がここを通らなければ私達は出会わなかっただろう。
私が何となく声をかけなければ彼は通り過ぎていただろう。
だがそこを通ったのは彼だったし私は声をかけた。
そう、まるで運命のように。






その後の幸せな日々はあっという間だった。
気がつけば私達はいつも一緒にいた。
しかし彼の笑顔はどこか悲しげだった。
それは日が経つに連れてよりつらそうになる。
気になって彼に聞いたがはぐらかされてしまった。


そしてある日彼は倒れた。
体は痙攣を起こし汗は滝のように流れていた。
「……っ、誰かっ!」
「待っ、て……」
慌てて人を呼びに行こうとしたが彼に止められる。
「そんなっ、でもっどうしたらいいのっ!?」
私はどうしたらいいか判らずパニックに陥った。

彼はすぐに回復した。
私がさっきのは何だと聞くと彼はため息を一つついた。
「もう話すしかないね」

「僕は“器”なんだ」
彼がいうには彼は『神』とやらの“器”であるらしい。
『神』は今彼が成長するのを待っているらしい。
信じられない話しだが彼は嘘をつかないのは知っている。
信じるしかなかった。
「いつ『神』は貴方に乗り移るの」
「今年の誕生日」
「そんな……」
あまりに近いその日に私は愕然とした。
「乗り移られたら僕は僕でなくなってしまう……」
「……そんなこと絶対させない」


「貴方は私が守る」



あの頃はできないことなんてないと信じていた。
だからあんな大それた事を言ったのだろう。


その日が来た。
突然部屋の中に歪みができそいつが現れた。
「お前が器か」
そう言って彼を指差す。
「彼は渡さない」
私は彼を庇うように立った。
しかしそいつは私など気にせず彼を指していた指を曲げた。
すると後ろにいた彼が私を押しのけそいつの方へ向かう。
「なっ……!」
彼がそいつにぶつかると思った瞬間二人が混ざった。
二人分の体が一つになった時それはもう彼ではなかった。
そいつはしばらく体のあちこちを調べる様に動かしていた。
「彼を返してっ!返しなさいよおっ!」
私は叫んだ。
しかしそいつは無視し腕を振るって空間の歪みを造った。
そしてその中に入る。
「ま、待ってっ」
私もそれに続いた。
だが一旦入れたもののすぐに外に出されてしまった。
「そんな……」
彼を助けなくては。
彼を助けなくては。
命を懸けて約束したのだから。
でも、どうやって?
それから私は自分の体の異変に気付く。
「また会えても私だってわからないね、これじゃ」
私は黒くギラギラとした皮膚を持つ化け物に変わっていた。





その日から私は彼を助ける方法を求めて走り回る。
人々は私を見て怯えて逃げ出す。
しかしある時一人の男が自ら私の方にやってきた。

「手を組もう、そしたら恋人を助けられるかもしれないぜ」

藁にも縋る気持ちで私はその男と手を組んだ。


神を殺すのが男の目的だった。
男は私に失敗したら死ぬといった。
だけどそんなのは構わない。

私は彼を救う事に命を懸けたのだから。

たとえ命に替えてでも彼を助ける。



そして私は彼を助けに歪みの向こうへと飛んだ。


彼さえ助かればいい。
約束さえ果たせればそれでいい。
他の事なんて私の知った所ではない。
世界なんて滅んでも構わない。
命を懸けて。
私は貴方を助けに行きます。










2007/04/22