夢の精霊





僕には思い出せないほど昔からソレはそこにいた。
そして夜に僕が眠ると必ず現れた。
一般的に夢と呼ばれる物の中で僕はソレと会っていた。
僕はソレと話もしたし喧嘩もした。
それはまた僕に世の中の色々な事を教えてくれた。
つまるところ友達で同時に親であり先生であった。
だが加えて僕自身でもあったのである。
ソレという存在と僕の境界線はひどく曖昧だったのだ。
ソレは僕よりも僕を理解していた。
だから僕はいつでもソレに絶対的な信頼をおいていた。



ソレはある時昼にも出て来たいと言い出した。
昼の間ソレは身を潜めて僕が僕を独占していたからだ。
確かに不公平だったので一日だけ交代してみる事にした。
色々と不安があったのだが、それはだいたい外れた。
例えばちゃんと僕の体が感じている物は感じられた。
そしてソレと話す事も出来たのである。
だから初め何故ソレが昼の間は静かなのかわからなかった。
でもそのうち飽きてきてからようやく理由がわかった。
ソレが静かな昼の間ソレはきっと眠っているのだ。
この状態はすることがない。
話をしている間他人には僕がぼんやりしていると思われる。
だからそんなに話し掛ける訳にもいかない。
つまらないから眠くなる。

故に僕は眠かった。
そこで眠ることにした。



……………………。
…………だ。
お……………選……た。
…式……めろ。
……て、………活………。
……………………。



変な夢を見た。
いつもの僕の夢はソレと僕だけしかいない夢だ。
だがソレは僕を動かしている最中だから出てこれない。
だからいつもと違うし、何かぼんやりとした夢だった。
その中で誰かに……何かを命令された様な……。
あれは誰だろう。
とても威圧感のある恐ろしい人だった。



今何時だろう。
そう思って僕は、目を開ける。
すると目が開いた。
もう体を動かす権利が戻っていたのだ。
どうやら僕は今僕のベッドの中にいる様だ。
ソレに今日の感想を聞こう。
そう思ったがいくら話し掛けても返事がない。
仕方ないから目を閉じ、眠ることにした。



「やあ、今日はどうだった?」
ちゃんと夢の中にソレはいた。
『慣れない事をして疲れたな』
もう当分はいいや、とソレは笑った。
そんなに疲れるのかと僕は驚いた。
「さっき何故話し掛けても答えてくれなかったのさ?」
『それは僕がここにいたからだよ』
「ここにいると僕と話せないのかい?」
『君が起きている間にこの場所は眠っているんだ』



それから数週間が経ったとき、おかしい事に気がついた。
記憶に所々違和感を覚えるのだ。
自分の行動なのにその時自分が何を考えたかわからない。
初めは勘違いだろうとたいして気にしなかった。
だがそれが三日間になるとさすがに気にせずにいられない。
僕はソレを疑った。
ソレが僕の体を乗っ取っているのだと思った。
だがソレは自分にはそんな事は出来ないと言った。
『もしそんな事をしているなら交代する時に僕が気付く』
そう言われるとそうなので僕は引き下がった。



記憶の違和感は増え続け、ある日さらにまずい事が起きた。
記憶が飛んでしまったのだ。
しかもその前と後では僕の状況が大きく変わってしまった。
記憶が飛ぶ前、僕は親に怒られていた。
だが気がつけば大勢の人が平伏す前に立っていたのだ。
僕は慌てて誰か助けてくれる人を探す。
すると親がいたので事情や経緯を聞きに行こうとした。
だがすぐ近くに立っていた人がそれを許してはくれなかった。
だからその人に聞いたが神とか精霊とか変な事を言われた。
訳がわからない。
あの夢の中にいる友人ならばわかるだろうか。
眠りたいと言ってみるとあっさり許可がでた。
隣の広い部屋に布団が用意されそこに寝かされた。
そして僕は夢の中に旅立つ。



『なにか大変そうだね』
「そうなんだ、精霊宿りとか神がどうとか……」
『大丈夫、大丈夫』
「でもこのままじゃあ……!」
僕は急き込んで言った。
『大丈夫、大丈夫』
だが、ソレは気味が悪い程落ち着いていた。



それから僕は色んな人に崇められて過ごした。
よくわからないから何か言われてもほとんど黙って聞いた。
さらに記憶の違和感もまだ続いていた。
僕はその違和感はもしかしたら神のせいかも、と思った。
皆の話によると僕に神とやらが降りたらしい。
その時声も変わり雰囲気も威圧的な物に変わったという。
だとするといつか聞いたあの恐ろしい声が神か。
または精霊の方かもしれない。



その結論が出る前にまた記憶が飛んでしまった。
今度は気がついた時辺りが騒がしかった。
近くにいた人に聞けば儀式の準備を急いでいるらしい。
何の儀式だろうか。
すると突然僕の頭の中に声が響いた。
『君は知らなくていいよ』
あの夢の世界の友人だった。
「出て来て大丈夫なのかい?」
『もうすぐ終わっちゃうし平気だよ』
「何が終わるのさ?」
『君は知らなくていいよ』
「何故?」
『終わった時に知ることになるから』





僕はだから何も知らないふりをした。
何かを知っているのはソレだということにした。
僕とソレはどちらも僕だとその時気付き認めていれば。
だから僕が精霊宿りというのは勘違いだと気付けば。
神を騙るものがいる事を知っていれば。

こんな恐ろしい事は起きなかったかもしれない。


黒くぎらぎらと輝く曲がった体を持つ怪物を見上げながら。
ソレと僕が混ざった僕は後悔した。










2007/04/15