What do you see?
――That's it !
「寒いねー、今日も」
白髪で褐色の目をした男が言った。
分厚い甚平を羽織り、こたつに入ったまま。
「こたつでぬくぬくしてる奴が何を言うか」
私は思わず突っ込んだ。
こちらは震えながらも寒い台所に立っているというのに。
「いや雰囲気だよ雰囲気、何て言うの、定型句?」
「違うだろ、阿呆」
「そう?ま、いいや」
呆れて言っても彼は気にした様子もなく流す。
「それよりさ、夕飯まだ?」
「千早、お前それついさっきも聞いた」
「だって、柘榴の作る料理は美味しいんだよ」
満面の笑みで言われた。
私はそれを一瞥すると断言する。
「言っておくが褒めても何も出ないからな」
「えーそんなー」
幼い子供の様に口を尖らせた彼に思わず笑ってしまった。
「ほら、できたから運ぶの手伝え」
「わーい」
できた料理を並べていく。
彼の方が早く運び終わり先に座った。
そしていつも通り私を待たずにすぐに手を合わせる。
「じや、いただ……」
だが、彼は急に口をつぐんだ。
そして私の顔をじっと見る。
「ん、どうした?」
「…………いや、何でもないよ」
そうは言いながらも彼の様子は何処かおかしかった。
お茶に醤油を注いだり箸を止めてはこちらを見たり。
見兼ねた私はもう一度聞く。
「どうしたんだ」
「何でもないって」
彼は何も言おうとしなかった。
翌朝。
私は彼の呻くような声で起きる。
「――っ!……なんで、また僕の……」
彼は焦りを顔に浮かべて私の部屋の隅に立っていた。
「一体どうしたんだ」
「あ、あ、うあー起こしちゃった?ごめん」
声をかけるとはっとしたように無理矢理笑顔を作る。
「いや、それより何かあったのか?」
「いや、なんでもないよ」
何でもないわけがないだろうに。
「じゃあ、何故お前はこの部屋にいるんだ」
「え?んー、えっと君と出掛けたくて誘いに」
「別に行ってもいい」
「本当に!じゃあ行こう!服屋とか見て……」
「……少し待て準備する」
そういえば一緒に何処か行くなんて初めてか。
色んな店を見て回って服を買う。
彼も一着買ったようだった。
「お前はどんなのを買ったんだ?」
「秘密」
彼は笑って答えた。
「?……そうか」
秘密にする必要なんてあるのか?
たかが服くらいで。
その夜。
書き物をしていると泣き声が聞こえてきた。
泣いている顔は見られたくないだろうから放っておく。
しばらくしてその泣き声は止み、一瞬静かになる。
だがすぐに荒々しく襖を開く音がそれを打ち消した。
「……?」
さらに水をぶちまけるような音。
私は慌てて部屋から飛び出す。
「何をしてる!?」
そこには。
白い死装束を着た彼がゆらりと立っていた。
「ふふ、驚かしちゃった?ごめん、柘榴」
にぃーっと笑う彼の頬には涙の跡があった。
「何をしているんだ」
「ん?ここに火をつけようとしてただけだよ」
「おい、冗談でもよせ」
「いやだね」
「一体何故そんな急に……」
彼は左手に火のついた蝋燭、右手には刀を持っていた。
床を濡らしているのは油だろう。
「だってさ、こんな、こんなのは……もうたくさんだ!」
彼はそう叫んで蝋燭を、投げた。
「……っ」
同時に私は彼の所に跳ぶ。
彼の襟を掴んで、そのまま近くの部屋に駆け込む。
しかし運悪くそこには窓が無く追い詰められてしまった。
「絶体絶命?」
「ふざけるな誰のせいで……」
「どうせ君の命は後一刻だったよ」
「……は?」
「僕は死ぬ直前の人に残された時間がわかるんだ」
彼は言った。
「僕の話をしようか」
額の部分に初めは四十九と浮かび一刻毎に数が減っていく。
それが零になるとその人は死ぬ。
彼はそれが見えてしまう。
それで昔、父親の死を予言してしまった。
『直久さんの額に数字が出たから後一日で死んじゃう』
彼は泣きながら母親にそう告げた。
『数字?何のつもりだい、縁起でもない事言うんじゃないよ』
それが他の人にも見えると思っていた彼は驚いた。
そして翌日父親は額にある数字が零になり死んでしまった。
母親は悲しみ怒り狂う。
『あんたはやっぱり悪魔の子だった!髪と眼がその証だ!』
『あんたはあんたを捨てるのを止めた直久さんを殺した!』
『この恩知らず!あんたのせいだよ!出ていけ!』
彼はそうして家を出たがあてもなく行き倒れる。
だが倒れた彼を吉亮という男が拾い、世話をしてくれた。
それから五年程経った時吉亮の額に数字が浮かんだ。
吉亮は若くて健康だったから事故に遭うのかもしれない。
そう考えた彼は吉亮をその日は外に出さなかった。
でも吉亮は心臓発作を起こし死んでしまった。
「そして今度は柘榴、君に昨日数字が出た」
「……」
「もうたくさんだ……なんでこんな物見えるんだ」
火が近づいて来ていて呼吸が苦しい。
「散々悩んだけど決めた。僕が何をしても君は死ぬのなら」
意識が、朦朧としてきた。
「額の数字が零になる前に、君を殺して僕も死ぬ」
彼は刀を鞘から抜いた。
「……それで話は終わったのか?」
「……え?」
「終わったんだな、じゃあさっさと逃げるぞ」
「君、さっきの話聞いてた?」
「私は死ぬんだろ?でもお前が死ぬなんて真っ平御免だ!」
「……柘榴」
「死ぬ事じゃなくて生きる事を考えろ!この大馬鹿者!」
私は叫んだ。
「……有り得ない」
彼は呟いた。
「それは私の存在を否定してるぞ」
「だって数字が一で止まったままなんて……」
「なんでだろうな」
「しかも、あの火事から抜け出すなんて……」
あれから一週間。
私達は生きていた。
千早が持っていた刀で壁に穴を開けて脱出したのだ。
古い家だし何年か前の地震で脆くなっていたからすぐ崩れた。
刀はその時に折れてしまった。
「ま、ともかく、これから頑張らなきゃね」
そう呟く彼の目の中で、何かがきらきらしている様に見えた。
――I see something shining in his eye.
2006/12/24