哀しい快楽





久しぶりにこの世界に戻ってきた。

全てが逆である、この世界。
僕はいつのまにか此処に来て、いつのまにか還っていく。
此処と向こうの架け橋となる空間の中で、いつも逆になっていることに気づくのだ。
此処にいる間は、僕も逆だから気づくことがなくて――でも、今は知っている。
何かの予感なのだろうか。

少し考え込んで、僕は気づく。
今は僕は逆になっていない。
つまり、此処から見たら逆になっていることと同意義で――、
僕はそういう『彼ら』の末路を、見ていたはずだ。
追われて追われて、嬲り殺されるのを。

そして、その作業は『僕ら』の役目だった。
この、白い白い世界の低い空に足をつけている黒を探して、処刑する。
向こうの感覚からすれば、見るもおぞましい光景を――
しかし、此処の住人は歓喜する。
完全なる平和を手に入れたこの世界の、ちょっとしたお遊戯だから。



「――たえまかつ」
逆さまになった声が聞こえた。
もう聞き慣れているそれに、困惑することもなく。
「こんにちは、以前のご同胞たち。そちらに合わせる気はないから、『普通に』話せ」
そうして、笑った。
「其処の隊長――新顔だな、僕の穴埋めか?お前は話せるだろう?」
「なくきはらえまお」と言いつつ出てきた彼に、そう言った。
「愚問だ」
鷹が描かれた彼の白すぎる上着が、風に大きくはためいた。
「こっちの立場に来て分かったよ、此処は異常だ。
 僕の後継の鷹の子よ、白は絶対ではないことをよく覚えておきなさい、そうすれば――」
「黙れ。老いた鷹に喋る権限などない。――よえらと」
僕は白に囲まれた。



気づいたら大広場に磔にされている。
記憶が抜け落ちているが、自衛だろうか、それとも単に何もなかったのだろうか。
周りの表情から察するに、どちらかと言えば後者のようだ。
「つまらなかったろうな――」
僕が全然反応を示さなかったようだから。

先程――といっても随分前だろう――彼に言いたかったこと。
それは彼が聞く必要のないことだ。
黒の世界に落とされる呪言など、白にいる彼は聞きたくないだろうから。
しかし、僕も罪を被った身だ。
もう一人位光から引きずり落としても、文句を言われる筋合いはないだろう?

僕はくすくすと笑った。
白が何か喚いて、僕に火をつけた。
このままだと、彼らの笑顔が待っている。

だから、僕は笑い続けた。
そして、叫ぶ。

「鷹の子よ、よく聞け。もうお前は僕に呪われている――
 『そうすれば――お前もこちらの世界に来ることが出来るだろう』」
青ざめて歪む彼の顔を最後に、目を閉じる。

僕の躯を焔が舐める。
それは黒く在る僕にとっては、どうしようもなく苦しくて。
それは少しだけ白が残る僕には、とてもとても心地よくて。

まだ白の感性が残っているのが哀しかったけれど、その思いも焔に焼かれ――



苦痛と快楽に襲われて、僕は歓喜の悲鳴をあげた。










あとがき。
気づいたらこんなになってた。
そして一人称なおかげで情景描写が出来ない。
しかし一人称でないと快楽が出ない(苦笑)

どーでもいいけど僕と彼の隊員は可哀想だな。

2007/05/14 2限。











2007/06/03