「誰にも渡さない」
大事な大事な宝物。
大事な大事な思い出の記憶。
それらを両手一杯にすくいあげて、私は笑う。
もう、誰にも渡さない。
人間はもともと、二人で完結する動物だと、彼は教えてくれた。
私はそうは思わないけれど、彼を嫌いたくないから頷いておこう。
私の欠けたところにぴったり当てはまる、とてもいいひと。
お互いがお互いに憧れて、手を伸ばしあった。
これが触れなかったら私の世界は壊れなかったのに――
でも、悔やんでももう遅い。
始まってしまった音楽は、もう最初から流れることはできないのだから。
彼は私を構成する要素を奪っていった。
そのときの私は、例えるならばだんだんとしぼんでいく風船。
初めはどこかが空っぽになったように感じた。
だんだんと身体的にも影響が及ぶようになってきた気がする。
不調を訴えてきて、そして。
身体が、彼に触れられることへの拒否反応をも示すようになった。
「もう、私を奪っていかないで?」
疑問なようでその実拒絶しか含んでいない私の言葉に、彼は激昂した。
当然だろう。
その反応に私は嘆息した。彼はさらに怒るのだろうな。あーあ。
でも――
私の要素を取り込んで、完結しようとしていた彼に同情などはしない。
それだけで完結することなんか到底出来ないのに。
なんて、愚かなひと。
彼は私に襲い掛かってきた。
また私に、接触しようと。
また私を、吸収しようと。
ここで私が取るべき反応は、当然逃げることだけで。
窓のないビルの階段を、駆け足で踏みしめていきながら。
屋上に辿り着いた時には、私は疲れきっていた。
もう逃げられない。そう近づいてくる彼は、ひどく楽しそうだった。
自らな行為が無駄なことだと、まだ気づかない。
私は怖がるよりもむしろ、楽しんでいる。
さぁ、――その信念を、その幻想を、粉々に打ち壊してあげよう――
「人間は例えどれだけ集まっても、完全な存在にはなりえないんだから。
ふたりだろうと、世界中の人全てを合わせても」
彼はがたがたと震えだす。――ほら、簡単に壊れだす。
「――どうせ、気づいているのでしょう?逃げ出したかったのでしょう?
でも全ては無駄な行為。――残念よ、分かり合えなくて」
何か言い返されたけど、私には届かない。――ああ、楽しい。
くすり、と笑う。
まだ距離が残っていたのを、彼は一気につめて私に触れようとする。
私はそれをひらりとかわして。
「ばいばい」
低い柵を飛び越えて、私は堕ちていった。
大事な大事な私のからだ。
大事な大事な私のこころ。
それらがまだ私に残されていることに哂って。
もう二度と――
「誰にも、渡さない」
見下ろす彼に大きく手を振って、――私は、瞳を閉じた。
あとがき。
怖いぐらいに思考が飛んで。
阿修羅姫→オレノカタワレ→Baroque→D.D.D.とまあ素敵に。
バロックはサンホラのほうね。うん。
最初の以外は少しずつ痕跡残っているかもしれません。
恋愛物が書きたかったな。方向性変わりすぎたさ。
どうでもいいけれど「同情」が「堂上」に変換されて爆笑しました。
2007/04/20
2007/04/22