涙の約束
暗闇の中にいた私。
感情のない操り人形だったから、記憶などほぼ無いに等しい。
ただ、殺戮兵器として機能していただけ。
私の手の内で、人は簡単に死んでいく。
彼らは私を忌避し、漆黒の闇に閉じ込めた。
尚この私を働かせるのだから哂うしかないが。
赤と黒の闇に、堕ちて行く。
私に感情を灯したのが、貴方だった。
人形だった私に、初めて話しかけたのは。
兵器だった私に、意志を持たせるように。
「今日からお前は、僕のモノだ。
僕以外に服すことは許さない。
僕以外に従うことは許さない。
――この僕に、身も心も縛られているがいい」
初対面の言葉―命令―に、私は歓喜した。
今まで私は赤でない命令など受けたことが無かったから。
だから、貴方に身も心も捧げると誓った。
「お前に太陽を見せてやろう――僕が、この世界を支配した暁には。
約束しろ、待っていることを。
切望しろ、僕の新たな世界を」
「約束しましょう、切望しましょう。貴方がそれを望む限り」
辺りを血が浸蝕していくのを感じながら、私は答えた。
貴方がそれで頷いてくれるのならば――
そして、貴方がそれで幸せでいられるのならば、私は。
この命を投げ打っても構わない。
私に届いたのは、扉の錆びた蝶番の音。
また、永い闇に閉じ込められた。
しかしそれは過去とは違うから。
幾らでも祈っていよう。
貴方が世界を宿す、その日まで。
また、貴方がいない世界に閉じ込められた。
存在を見てしまった私はとても辛い。
しかしその違いは正の感情も生むから。
幾らでも望んでいよう。
貴方が永遠に扉を開く、その時まで。
「私が誰の為に、存在していると思っておられる?」
哀しそうな顔で、ふっと微笑む。
「この私が貴方以外の誰の為に――」存在しているとでも?
呟いて、檻の向こうへと手を伸ばす。
貴方の掌が私を慈しむように撫でているのが分かる。
「愚問だったね」
心地よい音が耳を駆け抜ける。
「では――待っていろ、僕の為に」
楽しそうな笑い声と共に、絶対不可逆な命令が下される。
「当たり前でしょう?待っていますわ、いつまででも」
貴方のその言葉だけで、私は生きていけるだろう。
この血塗れた手を利用するのは、貴方しかいないのだから。
貴方の命令に、私は服従を。
服従だけを抱いて、待ち望もう。
貴方の約束に、私は歓喜を。
歓喜の涙を流して、貴方に従う。
私が知らない世界を、貴方は手に入れていて。
また、世界を隔てる扉は開いた。
私は光に解き放たれた。
「神々しいだろう?この摂理の中の王は。
神々しいだろう?この世界の中の王も」
「はい――」
ぱたぱたと水滴が落ちる。
私は知らず、涙を流していた。
この太陽の美しさに、そして貴方の神々しさに。
「私は貴方に、従い続けます――」
それでいい、と貴方は唇を歪める。
それでいい、僕だけの殺戮人形――
お前は僕に絡め取られているがいい。
あとがき。
・・・目指せ硬い感じを。漢字一杯で。
服すと従うを被らせてるのはわざとですよ、一応。
「僕」が好きです。「私」もなんかいい子過ぎて構いたくなる。
しかし文脈が読みにくい。
最初の方向性は、「その約束は、霞んで消えた」だったはず。
なのだけど。
2007/04/11
2007/04/15