What do you see?
白い白い、病院の色。
「空白」を想起させることなどお構いなく、ただ機能的に作られた色。
その中で医師は研究したり、検診したり。
・・・ただひとりの患者のために。
彼女の親は資産家なのだろう。
この建物の目的を知ったのなら、誰だってそう言う。
彼女ひとりに大病院を宛がうなんて、と。
実際その通りなのだが、娘への愛情などというものは彼らにはない。
僕には体のいい厄介払いにしか見えない。
・・・それも、事実の一側面であることは同じであろう。
「貴女にはこの世界がどう視えるの?」
すると、笑った。
「こういう、」
と言って、瞳を塞ぐように巻かれた包帯に手を添えて、
「人にそんなこと訊くんだ」
心底楽しそうに笑った。
「うん、そうだね。
私にはこの世界は色が満ち溢れて見える。
・・・此処の色が真っ白だ、というのとは違って。
確かに真っ白だけれどね、此処には感情が溢れているから。
私に対する何らかの、ね」
そう答えた。
・・・正直、少しだけ哀しい答えだ、僕は思う。
それでも僕は笑う。
なぜなら、彼女が笑っているから。
「無理しなくてもいいんだよ。判ってて、言っているんだから。
・・・貴方の感情が明るい色をしているのを視るのが」
好きだよ、と。
囁かれた言葉に赤面しながら、ありがとう、そう返す。
じゃあ、もうひとつだけ。
僕が訊いてみたい質問をしよう。
「貴女はこの世界に何を視るの?」
「絶望を」
すぐに言葉が返ってくるとは思わなかった。
僕は無言で、続きを促す。
「この世界に溢れている色で判るよ。
貴方以外の色は、判りやすい感情を持っているから。
人間と言う欲望が、此処だけでなく何処にでも視える。
だから、私はこの世界に絶望を視る」
そして、と僕に手を伸ばす。
「切なく甘美な絶望を視るから―
ここに、貴方がいる」
首の後ろに手の温もりを。
耳のすぐ側で彼女がくすり、と笑う音を感じた。
こうやって縋ってくる彼女が嬉しくて。
こうやってしか縋れない彼女が・・・とても、哀しくて。
僕はただ、彼女に体を預けていた。
「もう帰らなきゃいけない時間・・・だね」
いつの間にか離れていた彼女が呟く。
「そうだね」
僕は微笑んで、彼女の髪を掻き混ぜる。
緩んでいた包帯が、はらりと堕ちた。
彼女の瞳が―綺麗な透明をした瞳が―こちらを向く。
「またやっちゃったね・・・ごめん」
異端、とも言われるような瞳に謝って、僕は包帯を彼女に巻いた。
「ん。・・・ありがとう」
きっと、この言葉はいつもの如く、
包帯を巻いたことへの礼と、瞳についての礼だろう。
じゃあ、と病室を出る。
そしてこの監獄のような所を出て、やっと一息ついた。
・・・彼女といないあの場所は、好きではない。
僕まで異端の目で見られるのだから。
僕にこの世界が、音で埋め尽くされて見えるように。
僕がこの世界に、彼女という人だけを感じるように。
彼女には彼女なりの、この世界があるのだろう。
・・・やはり僕も、どこかがずれているのだろうな。
そう思いながら、また僕は進む。
紅い、血の色に染まった両手を眺めつつ。
新しい色を、彼女に捧げるために。
僕は今日も、またさらに紅く染まるのだろう。
あとがき。
裏仕様の締めは唐突だけれど。
・・・「僕」をどこか異常にしとかないと彼女とつりあわない(え)
てか、普通なら「引く」か「哀れむ」が正しい反応。
そのあたりが僕的な正常、とか普通、の範囲。
「どう視える?」あたりの描写がお気に入り。
2006/11/25 10:20
2006/12/24