「その夢を見たから」
僕は崩れた街を見つめている。
…汚れた色ながらもきれいな空。
よく考えれば、あの方の願いを叶えたら、たとえ生きていたとしても緑や赤紫の空はもう見られないのかもしれない。
命なき世界…もはや青や橙に輝くかつての色すら…見ることはできないだろう。
ふと見上げて、手を掲げた。
僕の腕に絡みつき僕の大好きな空の色に輝く結晶が一際強く光を放ち、
見る間に僕の頭上の空を澄んだ青に変えていった。
酸素の色。
涙が出そうなほど美しい景色だった。
緑の空の方が僕は好きだけれど、美しさではこの青には決して適わないだろう。
…この結晶は、どうやら人間としての僕を救おうとしたらしい。
どんな願いも叶える、ある種化け物のような美しい物体。
あいにく、それまでは人間らしくしていた僕がこれに触れる直前に
「戻って」いたせいで、これは僕に…或いはあの方に…歪められてしまったようだけれど。
青い空の下では、廃墟はとても哀しいものに見えた。
…変だ、僕はそういうやつじゃないのに。
壊れていくのとか、死んでゆくのとか、笑って見ているようなやつだったのに。
…いろいろ忘れていた時期が長すぎたのだろうか。
そういえば、あの方の声がしない。
僕ら…奴らの気配も、感じない。
近くまで追ってきていた気がするけど、本当に気のせいだったのか。
…今はきっと、僕は奴らの敵なんだろう。
僕は今は、反逆者。
今からでも何処かを壊しに行きたいくらいだけれど、裏切り者を許すような方じゃない、あの方は…
そもそも僕らの事を嫌っているんだから。
青い空を見ているのが辛くなってきて、もとの緑に戻そうとした。
…これがまだ僕に抵抗している。
強い意思の力。ただの人間相手なら、ある程度操ってやるつもりだったんじゃないだろうか。
緑の空に戻させたとき、何かを感じた。
…どうして、殺していく?
僕は小声で、
「嫌いだから」
と呟く。
死ぬのは怖いはずなのに。
僕は何だか悲しくなった。
これは僕の正体を知ってなお、僕に生きてほしいと思っている。
今、僕は生きたいのか死にたいのかすら、わからない。
「何なんだ、お前は…」
答えが返ってくるような問いではない。
そう思ったのに僕の中に、いくつかの答えが伝わってきた。
命…ヒト…願い…神…幻覚…侵食するもの…
「ずいぶんと贅沢な答え」
僕は呟きながらも考える。ばらばらに見えて、何かで繋がりそうな…
この星が生まれる頃私はやってきた。
永い時の中で私は星の一部のようになり、生命を形作り、はては自らを滅びに導くような歴史をたどった…
今、もう一度、星の上に生き、今度こそ幸せになりたいと願っている。
だから私は…私たちは「神」を…私を作り上げた。
欲深なヒトなればこそ、願えることもあるから…
結晶がぴしりぴしりと変容する。
「…あの方が嫌っているのは、お前なのか?」
そう…死んだ静寂を得んとしているから。…けれどお前も私のひとかけらなのだよ。
煌めきながら、光りながら。
お前を待っていた、そうそれの意思は伝えてきた。
お前なら私の声も聞こえる。
お前は生きられる。そしてもう一度私を星に拡げてくれる…
僕はそれを見つめた。
今のだけではない、かつての空の色もそれの放つ光に混じっている。
ぴきぴき、ぴしり。
「どうして?今でもそう信じているのかい?僕はあの方のものなのに」
そう言うと、それはきらりと光った。
その夢を見たから。
お前は私たちを星に思い出させてくれる…
…あぁ、そういうことか。
夢を見ているのだ。
これも、あの方も。
だから僕はこんなところに立っている…
そういうことなのだ。
これは…この結晶は…
僕は立ち上がった。
するべきことを、しなくてはいけない。
…夢を見ているのだ。
2007/06/17