No title
昔、昔、美しい森のはずれに、妹とその姉貴が住んでおりました。
姉貴の名前はジュマンジ(仮)、妹の名前はザスーラ(仮!)といいました。
ある日、ジュマンジが言いました。
「ザスーラ!今日はおばあさまのところにお見舞に行ってちょうだい」
「おばあさま…ポーラー・エクスプレスおばあさまね。
でもお姉さま、おばあさまは森の反対側に住んでいらっしゃるんでしょ?」
ザスーラはいつもきれいな赤スカーフを身に着けています。
今日は頭に巻いていて、丸で盗賊か何かのようです。
ジュマンジはなにやら怪しげな音を立てて煮える鍋を混ぜながら言います。
「ええ、そうよ。でもそれがどうかしたの?」
「…あのおばあさま、怖いんですもの」
ポーラーおばあさまはとても怖い人です。
ザスーラの赤いスカーフを見ては
"変な男につかまったんじゃないでしょうね!!"
と怒鳴るのです。
はっきり言ってザスーラには余計なお世話。
だって、彼氏いない歴16年、つまりいたことがないのですから。
けれどジュマンジは素敵な笑顔で言いました。
「あ゛?私に行けと?」
キャラが違うように見えますが、いたってさわやかな笑顔。いつもの姉貴です。
「い、いえ…でも…」
「でも?」
「森にはおそろしい狼がいるじゃない」
ジュマンジの目がきら〜んと光りました。
「大丈夫よ、何とかなるわ」
「…え?」
ジュマンジはぐつぐつ言っている鍋からすばやく1さじとってマグカップに入れます。
「…私もおばあさまは苦手よ、でも…」
マグカップにココアをぶちまけ、ミルクを注いでかき混ぜて、
「応援してるわよ」
「何それ」
ザスーラの素速いつっこみを無視し、ジュマンジはココアを出しました。
「さ、これ飲んで行ってらっしゃい。お見舞品はバスケットの中よ」
「え、ええ…わかったわ」
ザスーラがココアを飲み始めたのを見届けると、ジュマンジは言いました。
「じゃあお洗濯をしてくるわね」
「ええ、私も行ってきます」
「行ってらっしゃい!応援してるわ!」
「…?」
いぶかしみながらもザスーラはバスケットを持ち、森の奥へと歩き出しました。
ジュマンジは妖しげににやりと笑います。
「判断力を鈍らせる薬が効くといいけど…」
ザスーラはどんどん森を歩いていきます。
しかしこの森はとっても広いのです。ザスーラはだんだん疲れてきました。
「っとにもう何で森のはじとはじにわかれて住むのかしら?」
などと色々ボヤきながら歩いていると、ふと、ザスーラの頭に明案が浮かびました。
「…原っぱとか見つけて見舞品飲み食いして時間つぶして帰ればいいんだわ!」
そうと決まれば早いものです。ザスーラは前に見つけた原っぱへ向かいました。
奇妙な影が追っているとも知らずに。
原っぱについたザスーラはとても驚きました。
「わぁ…すごーい…」
だって原っぱ一面、花畑みたいになっていたんですもの!
赤や桃色や黄色の、大きくてやわらかな花びらと、たくさんの雄しべ。
いいかおりのするきれいな花です。
ザスーラはできるだけ花を踏まないように、花畑の真ん中に行きました。
そうして全てのその努力を無駄にする勢いでどっかと座ると、
「お弁当〜」
と悪気もなく歌いながらバスケットを開けました。と、
「は…?」
中には骨付き肉がどっさり。
「何…これ…どういうことかしら…?」
全て、生。
ザスーラは唖然としてしまって数分固まっていました。
そして数分後、のことです。
「おやおや、これはお困りのようだ」
「だ、誰?」
ザスーラが振り向くと、そこには一人の少年が立っておりました。
「私はハリスだ。見る所、お前にそぐわない食べ物を持っているようだが?」
「え、ええ…そうなの」
ザスーラはぼうっとなっていました。
ハリスがかっこよかったからです。
ただでさえかっこいいのに、
ジュマンジの薬とあたりの花…ケシの花のせいでほとんど王子様に見えているのです。
「私も何の間違いかクッキーなど持って来てしまってな…良ければ取り換えてほしい」
「ええ…え、生の肉…でいいのですか?」
「あぁ、主食だからな」
「??…私はかまいません。え、本当によろしいのですか?」
「私もかまわんさ」
「あ、ありがとうございます」
ザスーラは初対面で緊張するふりをしながら、内心大喜びでバスケットを手渡しました。
受け渡しの瞬間少し手が触って、ザスーラは耳まで真っ赤です。
「熱でもあるのか?赤いが」
「い、いいええ」
ハリスは少しにやにやと笑いました。人の良い、と言えなくもない笑顔です。
「では隣に座らせてもらおうか」
「え、ええ!?な、なんでですっ!?」
「いや?別に」
まだ出会ったばかりなのに、ハリスはザスーラとほとんど距離を開けずに座りました。
普通なら嫌がりそうですが、彼氏いない歴16年でかっこいい男性が「攻め」で来ると
一撃で沈められてしまうこともあるのです。
ただしザスーラはもうとんでもない顔色です。
「時に…」
ハリスが切り出し、ザスーラはびしっ!と背筋を伸ばしました。
「なぜこんな森の奥に?」
「ああああああの、森の向こうのほうにおばあさ…祖、祖母が住んでおりましてっ」
ザスーラも、王子様相手ではろれつが回りません。
あせるザスーラを見てハリスは楽しそうです。
「そうかたくなるな」
言いながらハリスは、気負いのない動きでザスーラの頭をぽんぽんとなでました。
普通の少年にできる芸当ではありません。
「はうっ」
ザスーラにはもうクリティカルヒットです。ストライクです。
ケシの効果もありまして、ザスーラは見事に倒れました…ハリスの方に。
どさっとハリスはザスーラを受け止めました。
明らかに予測して動いていたようです。
ハリスが笑い出し、ザスーラは色々な意味で動けません。
「あああああああのっすっすみませんっ」
「構わん構わん」
ハリスはわざとゆっくりザスーラを助け起こします。
ザスーラは嬉しいやら混乱するやら、ジュマンジの薬が効いています。
ハリスはザスーラを助け起こすと、はじめて肉を食べました。
地がしたたるせいでとてもワイルドです。
つられてザスーラもクッキーを食べようとし…ぴた、と手を止めました。
「…もしかして手作りですかっ…?」
「…悪いか?」
「いえっいえっいいえーっ」
さらに嬉しいやら恥ずかしいやら、ザスーラはかりかりとクッキーをかじりました。
「…それから?」
「へ?」
「お婆様のところに行くということなのだろうが…行ってどうするのだ?」
ハリスはすでに2つめの骨付き肉にとりかかっています。
ザスーラは色々な影響で見ずしらずの人に言いだしていました。
「私、私の祖母は少し病気で…で、それ、お見舞いに持っていくことになりまして、
でも、私祖母のことが怖くて…むしろ苦手と言うか嫌いなんです…それで…」
「行ったことにして戻ろうと」
「ええ…」
ザスーラはこんなことを言ったらこの王子様に嫌われてしまう、と思いました。
それで思わずうつむき、目の前のケシの葉をぶちぶちとちぎりはじめてしまいます。
ハリスはしばらく黙っていましたが、急に行動を起こしました。
ザスーラの方に前から腕を回し、ザスーラの頭に口を近づけて…
「良く分かる。そんな気にもなるさ」
囁きました。
「ひぁぁ…」
再びクリティカルでした。ダメージ限界突破の1万ダメージです。
これも普通の少年には出来ません。むしろ大人の男にも出来ません。
やったらやった方が真っ赤になるものです。
それをハリスは本当に素でやっているのです。気取るわけでもなく。
阿片の力でくらくらしているせいで、ザスーラはもうおかしくなる寸前です。
「だが、こんなものを持っていけば、お前の意志も伝わるだろう?行くだけ行くといい」
「はい…そう…ですね…」
ザスーラは嬉しい中で、少し早く放してほしいと思いました。当たり前です。
真っ赤な顔が酷く熱ります。うつむいているからなおさらです。
何せ、ハリスが喋るたび唇の動きや息を髪と頭に感じてしまうのですから、
たまったものではありません。会って数分でザスーラは落とされています。
ザスーラがおばあさまのところに行くことを口実に立ち上がろうとした時、
とどめの一撃が来ました。
「私が待っていてやるから」
ぷしゅー、とザスーラは頭から蒸気を出してしまったように感じて、
ふらりと後ろに倒れかけました。
しかし、やはり予測済だったのでしょう。
ハリスはしっかりと抱き止めると、そのまま引き寄せて抱きしめました。
ザスーラの意識がすとんと消えました。まあ当然でしたが…
はっとザスーラが意識を取り戻したのは、再び森の中。
ぼうっとしたまま歩いていたようです。
今のは夢だったのかしら、とザスーラは思いました。
しかしバスケットとは別にもう一つかごを持っていることに気付きました。
ザスーラがのぞきこむと…
「……っ!?」
素敵な手作りクッキーが入っていました。
そう、夢ではなかったのです。
「ハリスさんが…持たせてくれたのかしら」
ザスーラはほほを赤らめながら呟きました。
「待っていてくれるのね、きっと…私、がんばるわ!」
そしてザスーラは光並の速度で森の道を駆けていきました。
恋心は太陽レベルです。
「あら、速いわねぇ」
再びザスーラを追けていた人影は、ジュマンジの声で呟くとザスーラを追い始めました。
そして森の向こうはずれ。
ザスーラが必死になって走って来る、まだ少し前です。
小さなおうちの中、ベッドに寝そべるおばあさまがおりました。
「ったぁく、見舞はまだかぁねぇ!」
怒鳴ります。ポーラーおばあさまです。
「最近の若いもんは!年寄りを大切にできんかねぇ!」
激しい独り言。これは説明キャラとして申し分ありません。
早速お願いしましょう。
「確かにあの二人の両親は「ロマンを求めて旅に出る!」とか言っておったが!
だぁからっておばぁちゃんを見捨てるたぁどういうことだいねぇ!
わたしだってジィさんに先立たれて淋しいのなんのって…」
そんな説明をおばあさまがしている時でした。
こんこん。
「…誰だいっ!見舞だとしたらさっさと来なっ」
かちゃっ、きい…
おばあさまはドアに背を向けていて、誰が来たのか気付きません。
「で?!今日はどっちだい!」
入ってきたその人は、静かに言いました。
「ジュマンジ…」
「姉の方かいっ!!…」
「から、頼まれて来た」
「何ぃ?」
おばあさまは振り向いて…
その数分後、ザスーラがそのおうちに到着しました。
玄関の扉をノックします。
「おばあさまー?入りますー」
ザスーラがノブを回そうと手を伸ばした…瞬間。
「きぃゃぁあああああ」
がちゃっ!ばんっ。
ザスーラが慌てて退がります。叫びながら出てきた誰かは、
「ああああぁぁぁぁぁぁ…」
すごい速さで森の向こうへと去っていきました。
「…もしかして、おばあさま…?」
ザスーラがその方向をながめていると、後ろから、おうちの方から声がしました。
「速かったな」
「ぇええええ?!」
振り返るとそこには、そう。
「ハリスさんっ?!」
「あぁ」
ザスーラは見ただけで赤くなってしまいました。
ケシの花や薬の効果もなくても。
ザスーラにはハリスが王子様にしか見えません。
「どうしてこちらに…?」
「待っていると言ったろうが」
「…ここで…!?」
ハリスは『花畑で』などとは言いませんでした。
しかし普通目的地にいるなんて思うでしょうか。
もちろんザスーラだって夢にも思いませんでした。
「あの…今のは私のおばあさま…かしら?」
「ああ、そうだ。追い出してやった」
「…どうやって?」
「ん…」
おばあさまは振り向いて…
一瞬でフォーリンラヴでした。年の差恋愛です。
「…誰だむぐっ」
ハリスだったのです。
ハリスは迷いもせずにおばあさまにライト・キスをかましました。
「っ!?っ!?」
「ふむ…病気と言うのは嘘らしいな。充分元気そうではないか」
「な…にを言ってるん…だい…?」
おばあさまは乙女チックにポーズを決めました。すごく変でした。
ハリスは無表情のままおばあさまのほほを
慣れた手つきで触れ、滑らせ、そのまま首筋に持っていきました。
「ひゃはぁ」
「淋しがることはない。ジュマンジはお前を心配しているぞ?
うちへこないか…と」
「そ、そうなのかい…?」
ハリスはおばあさまを抱え込むように抱き、耳元に囁きました。息を多めに。
「愛されることに慣れるがいいさ」
「ひゃ…ひ…きぃゃぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁ…」
そうして異常に興奮させられてしまったおばあさまは、
年齢不相応な刺激に耐え切れずに逃げてしまったのでした。
「…ふん」
そしてその行動の全てを、ハリスは何の感情もなくやってのけたのです。
「………え」
「何か?」
「いえっ…」
「心配するな」
言ってハリスは素晴らしい笑顔を浮かべました。
宇宙全ての星を撃ち落とせそうな笑顔でした。
「唇は念入りに洗ったから」
ザスーラは凍りつきました。でも心のそこでは嬉しい気も…します。
これまたハリスは予測していたのでしょう。
「さて、目的を果たせそうだ」
平然と言い放ちました。
「何が…ですか…?」
「…あつらえむきの大きなベッドがある」
「え」
ザスーラが後退る一瞬前に、ハリスがザスーラの手をつかみました。
「あっあっあのっ」
「何だ」
「何をっいきなり…」
ハリスは再び煌めく笑顔で、言いました。
「今日は肉の変わりにお前を食うさ」
「っ…ぃ…嫌ぁぁぁぁぁ!」
王子様に逆らいきれないザスーラは、
ずるずるとおうちの中に引きずりこまれて行きました。
その後窓が閉められ、カーテンが閉められ…
夜になっても誰も出て来ませんでした。
「あのー、すみませーん」
「…何かしら」
一人の男が、木の陰に隠れていたジュマンジに話しかけました。
「猟士なんですけど…このあたりに危険な狼がいると聞きまして」
ジュマンジはさわやかな笑顔で答えました。
「お探しなの?」
「はい…」
「狼ならあの家で女の子を捕食中よ」
「…は?!」
「まだ明るい部屋の様子、外からさぐってごらんなさい」
猟士は不信そうに目の前のおうちに向かっていきました。
それから少しして、
「わああああ!」
叫んで逃げていきました。
ジュマンジはにっこり笑います。
「ふふふ…ひっつけ作戦大成功ね」
妹思いなのかどうかは…わかりません。
2006/10/22