blue rose : etude
夢が生んだ青い薔薇。
これから始まるのは、死の練習曲。
青い薔薇はこれすらも、練習だと言い切った。
俺が青い薔薇を視認出来るようになったのは昨日のことだ。
簡単に言うと、昨日俺の手首に薔薇が「咲いた」。
俺は規約で決められているように届け出る気はない。
・・・何故って、厳重な保護下、もとい監禁状態に置かれることの他に何かあるとでも?
今、世界で薔薇が見える人はまだ少ないが、
ここにもいないとは限らない・・・でも、まあ、いいか。
そう思ったのが運の尽き。
・・・青薔薇保有者を捕らえれば、謝礼がもらえるんだったな。
校舎の中を追いかけられる。
後ろには大勢の教師と警備員。
青薔薇の気配を察知し、彼らは一層速度を上げる。
俺も追いつかれないように走る。
ただ、相手のほうが体力も何もかも上だ。
とうとう、ある大窓の前で追いつかれた。
金に目を輝かせてじりじりと追い詰めてくる。
・・・意を決して、後ろの窓硝子を蹴破り飛び降りた。
あらゆる単純な思考は消えうせる。
どうしたら逃げられるだろうか、と脳を動かす前に・・・
体に、突如痛みが襲った。
硝子で切れた痛みの比ではない。
痺れた感覚があったから、電線にでも引っかかったのだろうか。
・・・激痛下でも冷静な思考を紡ぐ自分に、苦笑する。
間もなく、意識は飛んでいった。
体を動かすと、激痛がはしる。
・・・死ぬことは出来なかった、か。
俺を嘲笑うかのように、青空の中悠々と鳥が舞う。
以前時計をつけていた位置、右手首を眺める。
青い薔薇はより一層鮮やかに花を広げていた。
・・・追手の、気配。
痛む体に鞭打って、よろよろと走り出す。
闇雲に校舎内を駆ける。
と、何か掲示物を見ていた人とぶつかった。
「あ・・・」
俺が意味のある言語を発する前に、彼は笑う。
「あれ、薔薇取れたんだ?良かったじゃん」
怪訝な顔で手首を見る。
・・・ぶつかった弾みであろうか、青い薔薇は取れていた。
床に落ちて急速に消えていく様子が目に入る。
「ふーん・・・見える、みたいだな?」
俺の問いに、彼は頷いた。
「もう、君を追ってくる人はいないね」
その後も彼と会話を続け、俺と彼は友達になった。
・・・と、名前を言っていないことに気づく。
「俺は慧。よろしく」
差し出した手を、
「僕は翔。こちらこそ、よろしく」
しっかりと繋いで。
過ぎる毎日は代わり映えがしないが、貴重だと今は思える。
普通に学校に通い、
普通に友達と遊び、
普通に笑いあえるという「日常」は。
青薔薇も、今はない。
何気なく、薔薇が咲いていた場所の裏を触ってみる。
・・・何か、異常な感触がそこにあった。
押してみると、指の先が痺れる。
調べてもらった所、どうやら青薔薇は俺の体に種を植えつけていったらしい。
目の前が暗くなる。
嫌だ嫌だ嫌だ・・・っ!
また、あんな悪夢は見たくないんだ。
背筋に悪寒が走る。
負の感情、負の言葉の奔流に飲み込まれそうになる。
俺はただ、思い通りに動かない体を抱えて震えていることしか出来なかった。
・・・こつ、こつ、こつ。一体どうしてリノリウムの床でこんな音が・・・(笑)
やけに足音が大きく聞こえる。
・・・こつ、こつ、・・・。
足音の主は俺に影を落とすように止まった。
思わず俺は見上げる。
「やあ、こんにちは・・・いや、はじめまして、だね」
胡散臭い男だ。外套と帽子で輪郭が良くわからない。
「青薔薇保持者だった慧君、・・・だね?」
俺は返答を躊躇った・・・が、それは無言の肯定と同じこと。
「わたしはこういう者だ」
名刺には、ブルーローズ特別部隊、の文字。株式会社、って書きそうになった(笑)
そして、俺にこうのたまった。
「死んでこい」
気を取り直して話を聞いてみる。
こいつの突拍子のない思考の源も気になったことだし。
・・・どうやら、こういうことらしい。
俺の種が発芽する前に死ね、と。
世界のためにも俺の精神面にもいい、という理由はどうも後付けに聞こえるが、気のせいだろうか。いや、気のせいではない。
それからあいつは、色々な質問をしてきた。
誕生日だとか、好きなことだとか、何のためだかわからないような質問ばかり。
終わった後俺は放り出された。
・・・あいつはどこかに電話したり、何か打ち込んでいたりする。
暇だったから、落ちていた本を拾って眺める。
「青い薔薇」と題した小説のようだ・・・文字を見ただけで吐き気がする。
そこまで確認したところで、あいつは唐突に立ち上がった。
「ついてこい」
そう言って、踵を返し歩き出す。
・・・渋々と俺はついていく。
着いたところは寂れた高層ビル。
・・・エレベーターで上がって、飛び降りろ、だと。
そして俺を押し込んであいつはどこかへ消えた。
適当な階のボタンを押して、待つ。
扉が開いたが、降りる気にもならずにぼーっとする。
そしてまた適当に三つばかり押した。
ふと思い立ち、紙とペンとを探す。
二言三言感情を遺し、次に開いた扉で降りる。
そして、後はご期待の通り飛び降りたぜ?
外套の男は建物の陰から出ようとした。
・・・が、人気を感じて思いとどまり、覗き見る。
「君も、逝ってしまうんだね・・・」
ぽつりと漏らす。
そして彼は握り締められていた紙を大事そうにとる。
読んで、それに向かって静かに祈る。
元の通りに戻ろうとする足を止め、こう呟く。
「あえて、こう言おうか・・・
僕は、ずっと待っているよ」
翔へ。
読むかどうかは分からないけど、一言だけ書いておく。
・・・ありがとう。感謝してるよ。
あとがき。
ずいぶんと内容を付け足しました。
・・・何からって、私の見た夢から。
さすがにそのままだとあまりに脈略がないので。
もともとあったラブコメ要素(笑)はすべて消えましたがまあいいとします。
・・・心が傷つくのに気づかないふりをして書いている気分です。
この連載・・・というか、シリーズ?書き上げないと心は晴れないでしょうが。
2006/06/06
2006/08/20