鈴の音が鳴る場所へ





音が、聞こえる。
たとえば、繁華街の雑踏の喧騒。
たとえば、電車の接近を知らせる踏切。
たとえば、延々と野球中継を流すラジオ。
この世には、音が溢れている。
この世には音で溢れているって書いてたよ(苦笑)
だけど僕には、そんな音は聞こえない。
僕に聞こえるのは、危険を知らせる鈴の音だけ。
それは、煩いくらいに、至る所で鳴っている。

・・・そう、僕が狂ってしまいそうなのも、鈴のせいだ。
・・・そう、僕の心がいつでも痛むのも、鈴のせいだ。
鈴は、僕の中で鳴っているのだから。



凛、とした声が響く。
彼女の声だけは、今の僕にも聞こえる。
きっと、僕には彼女の声が必要なのだろう。
その容赦なく突き刺さる音は、僕を停滞から救ってくれる音。
彼女は、僕なんか要らないだろうけど、
でも・・・僕には彼女が必要なんだ。

「惚れてるのか?」
醜い笑いを浮かべながら、そう問う奴もいる。
聞こえていない、と思っているのだろう。ああ、聞こえていないさ。
・・・でも、僕だって口の動きと表情から内容ぐらい察することは出来る。
改めて、自分自身にその質問をした。
確かにそういう面もあるとは思う、でも・・・
・・・もっと、悪質かもしれないな。

彼女は、僕とちがって尊敬できる人だ。
だから、頼るとか惚れるとか、そういう感情はまだいい。
ただ、僕は・・・それ以上に、彼女に依存しているから。



僕は彼女の側に長くいることは出来ない。
彼女が一言発するたびに、鈴の音が大きくなるのだから。
救われて、傷つけられて、その繰り返し。

しょうがないことなんだ。これは僕が選んだこと。
僕が彼女に何も言えないから、僕は口がきけなくなって。
音が聞こえなくなったのも、僕が心を閉ざしたいから。
・・・皮肉かな、彼女の声だけは残っている。
臆病な僕への罰、なのかな。
「ありがとう」それすらも言えない僕への。
声が聞こえなくなれば、傷つけられなくなると思ったのに。
・・・救われることも、なくなっただろうけど。

考えて考えて、やっと僕は気づいた。
彼女がいなくても、僕は誰かに傷つけられる。
彼女がいないと、僕は救われなくなる。
・・・改めて、彼女に依存しているな、そう思った。



・・・うん、決めたよ。
僕は依存しないように努力しよう。
そのためには・・・まず、鈴の音を、止める。



りーん、りん。
遠くから、鈴の音が聞こえる。
りーん、りん。
その方向へ、僕は走り出す。
りーん、りん。
少しだけ、音が大きくなった気がする。
りーん、りん。
何処までも、走って、走って。
りーん、りん。
音源に行って、その音を止めるために。

・・・僕は忘れていた。
この鈴は僕の中で鳴っていることを。
・・・僕は忘れていた。
この鈴が知らせるのは「危険」だということを。

りんりんりんりんりん・・・
鈴は、煩いくらいに響き渡っていた。





鈴が発する警告

それは 心の痛みだけでなく

現実のものも 察知する


凛と響いた あの声から

結局は逃げていることを

あなたは気づいているのかな?











あとがき。
・・・人死なないと思ってたのに・・・
モデルが自分である人物を殺すことは出来るようです。
原案では、「彼女」が死ぬのがきっかけで声と耳が駄目になる話でした。
・・・さすがに、尊敬しているあの友達がモデルなので、殺せません。
私にもちゃんと心があるんだな、としみじみ実感しました。

2006/04/24










2006/05/21