赤い紙雛





今日は上巳の節供、雛祭だ。
女子の節供ともされる華やかな日。
山奥にあるこの村も、華やかな活気に満ち溢れていた。
どの家を覗いても、様々な花たちの笑い声が聞こえる。
そこはとても、平和だった。

・・・ただ、一軒だけ沈んでいる家がある。
中には小さな花が一輪だけで、他には誰もいなかった。
花・・・否、少女は静かに泣いている。
腰まで届く長い髪が濡れるのも厭わずに。
手には一枚の写真。
その写真には、少女と同じ年頃の、
肩の辺りで髪を揃えた快活そうな少女が移っている。
「・・・もう、一年も経ったんだね・・・あなたが死んでから」
・・・雛祭なんて・・・大嫌いだ。
少女はそう思いつつ、自然と一年前のことを思い出していく。



あの日は、季節はずれの豪雨の翌日。
私は母様に長い髪を結ってもらって、着物を着付けてもらってご機嫌だった。
こんなに綺麗になって、あなたと村を歩けるのだもの。
そう・・・私達は、親友といえるほど仲がよかった。
昼間は二人で村をまわった。
綺麗だと褒めてもらったり、お菓子を貰ったりして、とても楽しかった。

夕方、私達は川のすぐ側まで来ていた。
紙雛と供物を神様に捧げるためだ。
私達は川にさらに近づこうと歩いていった。

・・・その後のことは、よく覚えていない。
人づてに聞いた話では、私達は足を滑らせて、
荒れ狂う川の中へと飲み込まれたそうだ。
そして、私の両親は命懸けで私を助けたけれど・・・
後は皆、増水した川の下流へと流されてしまった、と。

・・・今でも、その時のことを思い出せないことが悔しい。
たとえ、真実がどんなものであろうと・・・
私は、それを知りたかったのに。



少女は、窓から夕日が差し込んできたことに気づいた。
机の上に置かれた紙雛と供物を手に持ち、少女は今年も川に向かった。
その目にはもう、哀しみはない。
あるのはただ・・・深い、深い決意だけ。

川岸には、誰もいなかった。
少女は紙雛と供物を土手に置き、小刀を取り出す。
左手首にすっと刃を当てていく。
川に流れていく、鮮血の赤。
そして少女は、紙雛と供物とともに川へ飛び込んだ。
・・・少女は、静かな微笑をたたえている。
人形と一緒に、流れていく。
白い紙雛が、少女のもとで赤く染まっていった。
夕日の下であるせいか、それはとても濃い赤をしていた。

少女の机の上に置かれていた手紙。
それには、優雅な字でこう書いてあった。
「私が書くのは間違っていることは分かっています。
 けれど・・・もうこの日に、雛祭というこの日に・・・
 このような出来事が、起こりませんように」





過ぎていく 時

容赦なく ひたすらに 流れていく

たとえ どこで何が起きていようと



少女の時は あの日に止まったまま

そして今 また 流れ出した

少女自身の 死によって



そんなことなど 構うことなく

ただ 時は巡り巡っていく










あとがき。
・・・ああ、やっぱり人死にが出た・・・
もともと流し雛を書きたいがために書き始めたはず、ですが・・・
どうしても、綺麗になりません。
2006/03/01










2006/03/05