嘆いても、もう遅い。





今日も僕らは身を隠していた。
追っ手がいることを学んだからだ。
落ち着かない気を紛らわす手段は、話すことだけ。
だから、いつも僕らは他愛もない話をしている。
今日の御飯はどうしよう、とか、そういうもの。
哂いながら会話をしていたのも、いつもと同じ。
しかし僕は、少女の目が真剣になったのが分かった。
僕は無言で話を促す。

少しの間、静寂が訪れる。

「いつまでも、一緒にいようね」
少女は、今にも壊れそうな笑顔で僕を見た。
それを見て、僕はとても切なくなる。
でも、それを抑えるように僕も笑う。
偽りの平和が、この場を満たす。

いつからだっただろう、少女が泣かなくなったのは。
僕はそれを無理に思い出さないようにしている。
すぐ近くにあるのに、とても重い扉。
再び開けることはないと、そう、思っていたのに。

その場が纏う空気が変わった。
偽りの平和から、剣呑な空気へと。

程なく、ぱん と音がした。



僕の目の前には、倒れている少女。
僕の後ろには、銃を構えた集団。

ああ あの時とは正反対だ
僕の中に、そんな言葉が浮かんできた。
懐かしく、そして忌まわしい記憶とともに。
・・・そう、だった。僕は少女の・・・敵。
ここに逃げ込むのだって、シミュレートされたことで。
僕が少女のためと行動した意味は、何もない。

しばし呆然として、そしてはっと少女を見る。
少女はまだ、生きていた。
僕に瞳を向けている。
僕が首を傾げると、搾り出すように声を出した。

「・・・ごめん・・・なさい・・・」
そう呟くと、少女は哂って瞳を閉じた。
顔から生気が消えていく。
少女が死んでいくのを見ても、僕は何もすることが出来なかった。

「こっちこそ、ごめん」
僕は聞こえるか聞こえないか位の声で呟く。
「僕さえいなければ、君の場所を知らせずにすんだのに」
諜報部員であることを、思い出さないよう掛けた鍵。
・・・いや、思い出されないよう、掛けられた鍵。
それが外れた今、後悔するのはそのことだけ。
僕はせめてもの手向けとして、少女に哂いかけた。
・・・きっと泣きそうな顔を、しているんだろうな。



そして少女は、この世を去った。
僕は張り詰めていた息を吐く。
ロボットに戻るために、もう一度息を吸う。
「血濡れの天使、死亡確認しました」
顔に表情を貼り付けて、銃を持つ彼らに言う。
そして、彼らに少女を運ぶように指示を出す。

彼らがいなくなった後、僕は涙を流した。
また、何も出来なかった悔しさに代えて。





すぐ側で 命の灯を消す人々

僕に救うことなんて 出来なくて

それが分かっているから

もう 分かってしまったから

僕は悔しさに 涙を流す



悔やんだって 嘆いたって もう遅いのに










あとがき
キーは、「少女が泣かなくなったのはいつから?」です。
気づいたら、哂うの続編になってて驚きました。
私がそう感じてるだけですが。
たぶん間にもう一話はさめるなぁ、と思いつつ。
・・・これ上げるときには間に話があるのかな?
あることを祈って。

ああ、結局ないし。できそうならいつか書きます。








2006/04/23