黄昏に捧げる塔





「あなたではないということ?」
「わたしにきいてもこたえはでないよ」
黒々と浮かび上がる地平の直線の、すぐ上は悪意を思わせる鮮烈な橙に染まっている。
その色は少しずつ変じて蒼に、そして近づく夜の黒にと空を彩っている。
奇怪なほどに大地は平らかだった。
滑らかに、作られたような平面が何処までも続き、命の気配は少しもない。
ただ二人の影だけが、悪意の橙に浮かんでいるだけ。
「ひがしずむ」
「しずむね」
「つぎはわたし?」
「わたしかもしれない」
悪意の鮮烈さが鈍ってゆく。
二人は手をつないで、消えゆく橙を見つめている。
「…どうなるのかなぁ」
「らくになれるというよ」
「ほんとうかなぁ」
「わたしはほんとうだとおもっているよ」
「ほんとうにあなたではないの?」
「わたしにこたえはだせない」
「それともわたし?」
「かもしれないね」
「どちらでもない?」
「そうなのかもしれない」
二人は沈黙する。
空を染める悪意が、消える。
途端に、大地がうめく、叫びはじめる。
機械の駆動音のような、強風の走る音のような。
苦しげなようで歓喜を秘めた音。
「こわいよ」
「だいじょうぶ」
「どうして」
「とてもきれいなんだ」
「はじめてみるよ」
「にどとみれないのかもしれない」
互いの手を強く握りしめあって、二人は空を見つめている。
…やがて一方が足元を見る。
「はじまるよ」
もう一方が足元を見る。
まさにその足元の地面が、柔らかく緑色の光をさざめかせる。
「やっぱり、わたし?」
ざわざわとその緑色の光が脈打つような強弱を付けながら、
不可思議な幾何学的規則に基づくような紋様を描くようにして大地の果てまで広がっていく。
様々な紋様が揺らめきながら変化していく様はあまりに美しい。
二人は…いや、光の中心となった一人はすっかりその生き物のような光の動きに見とれていて、
足元で起きた新たな変化に気づかない。
「さよならだね」
「え?」
奇怪なほどに平らかだった大地がうずく。
そして、弾ける。
ざわりと無類の触手のようなものが形成され、光の中心に立った一人に容赦なく絡みつく。
見る間にその姿が絡みつくそれに隠され、そこには歪な網目を持つ塔が出来上がる。
手をつないでいるもう一人には、何の被害も及ばない。
「ほんとうにさいごまでのこってしまった」
固く絡まりあった塔からは何の声もしない。
次の瞬間、塔を中心に緑色の光が大地を駆け抜ける。
うめく音が止む。
光が消えた後、残った一人が見渡す前で、大地がもう一度うずく。
大地から無数の何かが伸び上がる。…花の、蕾。
それらが一気に、塔の周囲から次々に咲いていく。
様々な趣の、美しい青の花。海の色に空の色に、世界を埋めつくして花が揺れる。
塔が崩れる。何も残さず、大地に零れていく。
花が青く世界を染める中で、残された一人がぼんやりと花を見つめて苦笑する。
「まだたりない?なら、もうわたししかいないよ」
花は黙って揺れている。










日付。