巣籠り
彼女が僕の服を掴んだ。
何事かと見守っていると、彼女がそのままぽつりと呟く。
「だいすき」
思わず笑みがこぼれる。
だって彼女は眠っているのだ。まどろんでいるという方が正しいかもしれないけれど、どう見ても意識ははっきりしていない。
僕は彼女の頭に唇を寄せて、僕も、と囁く。
彼女がかすかにうめいて、僕の体に頭を寄せた。
…温かい。
彼女を腕の中に抱き包んで横になるのが僕は好きだ。
いつも強がりな彼女が、そうするとふにゃふにゃになってしまう。
可愛い。僕がこうした時にしかこうはならない、と思うと、頬が緩むのを止められない。
「ねぇ」
呼びかけてみる。するときゅう、とでもいうような音が返ってきた。
…駄目だ。寝呆けてるか寝てるかだ、やっぱり。
にしてもきゅう、って何だか。笑いがこぼれる。
それのせいか、彼女はまたむぅ、とうめく。
…可愛い。これで大人しく放っておけるほど、僕は理性的じゃない。
僕は彼女を少し引き寄せて、体を軽く起こして彼女の耳をくわえる、それからそのままひっぱる。
「みにゃぁ」
起きている彼女からは想像もつかないようなへにゃけた声がして、僕はにやつく口元を抑えられずに彼女の耳を放す。
体を戻すと、彼女が眠そうに睨んでいた。
「やめてよ…」
それだけ言って大あくび。僕はたまらず笑う。抑えようとしてもくすくす、止まらない。
「満更でもないくせに」
言うと彼女が緩慢な動きで毛布を掴んで引き、顔を隠した。…照れている、らしい。
「…寝耳に襲撃かけないの…」
毛布の向こうからくぐもった抗議。僕はほころぶ口元を抑えようと必死。
「柔らかいんだよ、君のは」
彼女が目だけ毛布の向こうから覗かせる。まるで小動物だ。
「何をいやらしい顔してるの」
「それは酷いなそれは」
どうせ本気で言っている訳ではないとわかっているから、やっぱり笑顔がひっこまない。
…まぁ、彼女といれば大抵そうだけれど。
彼女の掴む毛布をぐい、と引き剥がし、無防備になった彼女をぎゅう、と抱きしめる。
逆らうようにつっぱった彼女の手が、少ししてさっきのように僕の服を掴む。
「この鬼畜」
そこまでしてないと思う。けど反論するのも何なので彼女の頭に呟きかけてやる。
「なぁに、ツンデレさん」
むぅぅ、と悔しげな声がして、また僕はにやけさせられた。
彼女の頭を撫でながら、言う。
「大好きだよ。ずっと」
彼女の手が力なく僕を叩いた。
本当に、ツンデレなんだから。
「ずっとって何よ…」
何かよくわからない質問だった。多分彼女もよくわかってない。
「駄目かな」
それだけ訊いてみると、数秒置いて彼女がゆるゆると首を横に振る。
…悔しそう、かも。
「嫌なの?」
ちょっと意地悪で訊くと、やじゃない、とこれまた悔しそうに…それにしては返事が速いけど…返ってくる。
「不安なだけだもん」
「嘘になっちゃうんじゃないかって?」
「うん…」
彼女は強い子じゃない。強がりな子だ。
寂しがりなのに、いつもは素直になってくれない。
…そこもまた、僕を惹きつけているところでもあるんだけど。
「…甘えて、いいんだよ」
言うと彼女が僕を見た。困った目がそわそわしていた。
「その…あのさ」
暫く言いよどむ。
どうしたのかと見ていると、彼女が不意にがば、と僕の両肩を掴んで小さく叫んだ。
「これ以上の甘え方なんか、思いつかないっ」
僕は一も二もなく笑いだした。彼女は少しの間困ったような怒ったような顔をしていたけれど、すぐに僕につられて笑いだす。
二人して、毛布の中で笑う。
「ねぇ」
「な…」
多分二文字の言葉だろうけど皆まで言わせはしなかった。
躊躇わず彼女の顔を引き寄せぎゅう、とほっぺたをくっつけた。
「ぬゃ」
よくわからない奇声。でも彼女は特に嫌がりもしない。…慣れたってところだろう。
「ほんと、大好き」
「…じゃ、だいだいだいすきっ」
「ちっちゃい子みたいだよ」
僕らの昼寝は長い。
実際に眠るまで、だいぶかかってしまうから。
2007/12/26