「テクノロジー」
地震が起きたような気がして目を開けて、体を起こして周りを見る。
地震ではなかった。ただ「ベッド」の蔦がずるずると蠢いて形を崩していっているだけ。
…朝らしい。
「布団」としてさしかけられていた柔らかな葉のついた枝ももう高い所まで引き上げられている。
全くこの「家」は容赦がない。自分でこちらを引きずりこんでおいて、客扱いもしてくれない。
仕方なく立ち上がると、「ベッド」はざわざわと葉を鳴らしてほどけ、木々の合間に引きこまれていった。
一体何処へ行けばいいか…見回していると、正面の「壁」を形作る木々がぎしぎしと鳴りながら拓け、道を作ってくれた。
根はどこに繋がっているんだろう、何度も悩んだ疑問がまた頭をよぎる。
足元は相変わらず苔むした根とも幹ともつかないものにぎっしりと覆われているから、
そのどれかが地中へ潜り込んでいるのだろうか。
固い「床」のおかげで、こちらはどうあがいても逃げられないわけだが。
そもそも、逃げようとしたり「家」を破損しようとするとこっぴどく叩かれるのだ。
しなやかな鞭のような枝は相当痛いので、逃げるのは今のところ諦めている。
出来た道を通ってみると、「テーブル」と「椅子」。
近付いてみると、「テーブル」を形成する木から伸びあがったつるに果実がいくらかついている。
「椅子」に座ると、背後の道は軋みながら塞がった。
朝食である。
毎日果実や葉など、植物質ばかりだ。まあ、これで肉などが出てきても怖いのは確かだが。
今朝の実は赤くて小さく、少々酸味が強かった。不味いわけではないからいいのだが。
ただやはり酸っぱくて、少し迷ったあげくに宙に手を伸ばした。
がささ、と「壁」の木が揺れ、奥から太く緑色をした蔦が伸びてきて、手のうちに収まる。
蔦を引っ張って、先の方を千切ると、水が吹き出すように出てきた。
慌ててくわえるが、服にいくらか水がかかってしまった。
…これはこれで親切なのかもしれない。
色々と制限された生活ではあるが、認められた範囲内ではいたれりつくせりなのは確かだからだ。
水を好きなだけ飲んで蔦を放すと、するするとまた引きこまれていき見えなくなる。
舌に残る酸味のせいで水は少し変な味がしたけれど、それでもおいしかった。
薄暗い、葉に覆われた空間。
しばし緑の「天井」を見上げていると、「天井」がざわざわと揺らいで日差しが少し入ってきた。
薄くなったらしい「天井」では、葉が光を通して金緑に色づいている。
朝早く起き、夜早く寝て、おとなしくしてさえいればここは楽園なのかもしれない。
森の魔物。
それは「森にいる魔物」ではなく、「森そのものたる魔物」だったらしい。
倒せと言われて来てみれば、いきなり蔦に絡み付かれて、動けずにいる間に木々に閉じ込められてしまい今に至るわけだが…
何故こんな状況になってしまったんだろうか。
殺すでもなく苦しめるでもなく養ってくれているくせ、逃げるとなるとひっぱたきにくる。
そんな話きいていなかったし、そもそも森そのものなんていう奇特な魔物なら、はっきりそう話してくれそうだし。
むしろいつも被害者をこんな風に閉じ込めているなら話すら伝わってはこないだろうに…
どうせ悩んでも答えなど出ないのだが、どうも話し相手がいないと暇なのだ。
そんなことを考えているうちに、「椅子」がざわざわと揺れて急かしはじめたので、さっさと果実を食べ終えて席を立った。
いつも通りなら、この後は散歩道でも作ってくれるだろう。
最近は外が春になったやら、トンネルの様な木に包まれた道には花が咲き誇っている。
…あんなに長い散歩道を毎日。健康に気を遣ってでもくれているのだろうか。
ふと、どうやら死ぬまで出られなさそうだと、なんとなく思った。
…それでもいいか、と思ってしまったのは、我ながら情けなかったが。
2007/05/06