孤独と孤高と虚空。





ひどく淋しがりだったのだ。
けれど同時に怖がりだったのだ。






だから私の友人は、専ら『孤独』だった。






人と仲良くするのも好きだったし、友と呼べそうな人もちゃんといたのだけれど、
ひとたび家に帰れば結局一人なのだ。
だから、私は『孤独』と話す事が多かった。
ただ、それだけ。






『お帰りなさい。』
「ただいま。」
『彼とは仲直り出来たの?』
「…まだだよ。」
『相変わらず、怖がりだね。』






姿はないが、声はある。
この声が私の空想なのか、他の何かなのかは良くわからない。
当然前者であるはずなのだが、どうもそうでない気がするのだ。






『孤独なんかと仲良くするのは良くないと思うな、我ながら。』
「淋しいんだから仕方ない。」
『孤独と仲良くしたら余計に淋しいだろうに。』
「別に、そうでもないよ。」
『困った人だね。』






『孤独』は、色々な事を知っていた。
私はよく、誰にも言えない様な下らない問いを、『孤独』に問いかけた。



「欲しいものがある。」
『何が欲しいの?』
「静けさ。」



少し間を置いて、『孤独』が言った。




『生きた静寂が欲しいなら、耳を塞げばいい。君の音がするだけだ。』
「死んだ静寂は?」
『…耳を澄ませばいい。』




『孤独』の言葉の意味が、掴めなかった。




『欲しいのは、自分が群衆の中に溶けてしまわないための静けさ。でしょう?』
「…確かに。」
『なら、群衆の中で耳を澄ませばいい。他人の音を聞き尽す。』
「何のために。」
『内と外を、区分してしまうため。』




何とも言えない感じがした。『孤独』が不思議なことを言うから。




『外の音は、体の表面まで押し寄せる。まずその音を、聞く。』
「いつもしていることだよ。」
『いつもより、もっと聞く.風の音も、小声の秘密も.全て耳にいれる。』
「…それから?」
『体の外と、内と。聞きくらべる。』
「….」
『この時、君の中は不思議と静かだ。時には、鼓動、呼吸…何の音も、しない。』






あの日、試して見たのだ。






『君は群衆の中で独り、死んでいるように、なる。』






一つの意思をもっているような、うねり進む、群れの中。






『難しいよ、この無音を見つけるのは。人ごみは時に、沈黙している。』








仕事に向かう人々は、前か下だけ見て足音だけを響かせていた。






『けれどそれでいい。難しい方が、いい。』






耳を傾けただけでは聞こえていなかった音、はあまりなかった。
無数の、しかし一つのものを形作る、足音が聞こえて…






『こんなことをしたら、人は気が狂ってしまいかねない。』






私だけが、浮き上がるように静寂。






『試しては、いけないよ。』






独り。
私だけ、溶けあえない。
全体に、組することができない。






「……嫌だ…」










『お帰りなさい。』
「…ただいま。」






『……だから言ったのに。孤独なんかと仲良くするな、って。』
「…うん。」






『ずっと孤独とともにいるといい。もう立ってすらいられないだろう?人々の中では。』
「…うん。」






『人は支えあう生き物。誰も支えられない君は、孤独に支えられるしかなかったんだよ。』
「…そうだね。」












そうして独りのまま、二人。




ただ、それだけ。










2006/06/18