弁明





最近、僕の回りの人々がおかしい気がする。



ああ、もちろんそれはきっと気のせいなのだ。
教室中の人が空っぽの抜け殻の様だなんて、そんなはずはない。



でも、僕以外はまるで機械になってしまったかの様に見え、
教えにくる教師すら虚ろな表情で必要最低限の授業をしているだけに見える。

…もちろん、見えるだけに違いない。



前とは比べ物にならない静けさに包まれた教室を見渡す。

真剣と言うより機械的な空虚さに満ちた授業風景。





こっちの方が楽に勉強出来るだろう。

前よりよっぽど幸せなんじゃないか?

…良かったな、ざまあみろ。





僕はぶるぶると頭を振って、ノートに目を落とした。

意味のわからない空想だ。

実際に彼等ががらんどうの人間になった訳もない。

僕は何もしていない。

何もかも…あんなこと、起きてなどいない。

あれは全て、夢。





あんなものは存在しない。

僕はいじめられてなどいなかった。

だから学校の人々を憎む理由もない。

もちろん憎しみを晴らすためにあれを利用したりもする必要はない。

そんなこと、ある訳ないじゃないか。

あれは全部夢。

僕は何もしていない。

全て僕の空想。

別に学校の人々は変わってなどいない。

クラスメイトも教師もいつも通りだ。

きっと、そうだ。





板書を見ようと頭をあげた時、僕は視界の隅を何かがよぎった様に感じた。

…いや、気のせいだ。

あれは僕の空想。



あれが彼等を乗っ取ってその意識を食ってしまったなんて有り得ない。

靄みたいなあれが時々その体を抜け出して、分裂して増えていく、
なんて不気味なことがある訳がないのだ。

あれを僕が学校に蔓延させたなんて馬鹿げた話がある訳がない。

夢見がちな僕の愚かな空想。

そもそもあれとは何のことだというのだろう。



これは夢。

全て夢だ。

僕があれを利用して嫌いな奴らを壊したのも夢。

あれが回り中の人を乗っ取って増えて、もう手近に乗っ取れる体が僕しかないことも夢。

行き場のないあれが靄の様に僕をびっしりと取り囲んでいるのも夢。

僕は悪くない。

何もしていない。

僕にそんなこと出来る訳ない。





ならあれは…どこからきたんだ?

あんなもの、僕はどこから連れてきたんだ?





そんな無駄なこと考えてどうするんだ。

あれなんて存在しないのに。





お前なんか消えちまえ。

お前なんか死んじまえ。

そう言われて殴られて、その間に思っていた。

世界を滅ぼすとか、全てを壊すとか、そんな思考に至る道はとても多いのだな、と。

そうして身近に、いかなる禍々しいものであろうと「力」さえあれば、
それを実行に移すだけの勇気などどこからでも湧く。

憎しみの矛先しか、見えなくなる。

自分も世界もふつりと消えて、歪んだ自由に降り立てる。





…全て夢だ。

あれは存在しない。

僕を乗っ取るなんて不可能だ。

だって全部夢なんだから。





僕は後悔なんかしていない。

僕は悪くないはずだ。

なんで僕まで。

いやだ。

夢だ。

全て夢だ。



囲まれていて教室全体が霞んで見える…それも気のせいだ。

全部空想だ。



全部空想だったんだ。




いやだ。

僕があれに食われたらあれはどんどん増えていくのか?




僕のせいじゃない。全部彼等が悪いんだ。




いやだ。やめろ。どうしてこんなことに。僕の空想だったはずだ。何の害もない、
何の影響もない、ただの夢だったはずなんだ。だから何をしても良かったんだ。
あれが彼等を食い尽しても夢で済むはずなんだ。だから僕は悪くないんだ。
何も、何も悪くない。彼らのせいだ。あれに食われて空っぽになって当然なんだ。
でも僕は悪くない。あれに食われる筈無いんだ。あれなんか存在しない。夢だ。
空想なんだ。僕の空想であるあれが僕を食って乗っ取









2006/06/04