翡翠格子
寒い…
そんな感覚に、少女は仕方なく目を開いた。
「……え」
翠。
少女の目に映ったのは、翡翠色の木々。
「…森…?」
冴え冴えとして、しかし鬱蒼と広がる森の中に、少女はいた。
少女は焦った様に体を起こす。
「…何で…」
昨日、少女は確実に自宅で寝付いたはずだったのだ。
それが涼やかな碧の苔絨毯の上で目を覚ましたともなれば
不安になるのも然りである。
軽くふらつきつつ少女は立ち上がった。
「本物…?」
言いつつ、少女は足下の苔に触れ、低木の葉を触り、
木々の向こうの景色を見やる。
「本物だ…」
そこは、樹海とでも言うべき所だった。
海の中の様に深く、澄み渡った空気が世界を満たしていた。
多くの木が生い茂り空を隠していたが、
不思議な事に葉の翠に染まった光が森の明るさを保っている。
下の方には苔むした岩があり、岩の合間を綺麗な水が川となって流れていた。
藻の緑もまた美しい。
低木と倒木がいくらか見えるが、それも天鵞絨のような苔が覆っている。
美しい森だった。
「何でこんな…?」
少女は戸惑いながら辺りを見渡す。夢でもなんでもなく、それはただ、現実。
「…?」
少し歩き出し、何かに躓いて少女はよろめいた。足下を見れば…
「っ!?」
実物に遭う事は滅多にないのに子供すらそれを知っている物。
…人間の、頭蓋骨だった。
黄ばんだ茶色の上には、苔も大してついてはいない。
「何でこんなの…」
少女は怯えて下がり、再び躓いて今度は尻餅をつく。
「!」
やはりそれは人の骨らしかった。少女は泣きそうになりながら立ち上がる。
声も出ない。
美しい森に、多くの人骨が転がっていた。
少女は怯えながら、辺りを見回す。
この森には、異常な程生命の気配がなかった。
と、少女が一点で目を止めた。
黄ばんだ紙。…一冊のノート。
縋る様に、少女はそれに駆け寄った。
走り書きの様に残された文字…それは。
『ていこうしても たすからな い ばけもの が』
黒ばみは…血だろうか。
「う、わ…ああぁあぁぁ…っ!!」
そこは、翡翠色の、牢獄だった。
2006/02/05